研究概要 |
染色体DNAの複製は起点における開始反応のレベルで制御されている. 大腸菌では複製起点(oriC)を持つプラスミドの複製反応を精製酵素を用いて再構成することが可能になりつつある. oriCでの複製蛋白複合体の形成に先がけて開始蛋白DnaAの他にRNAポリトラーゼとHU蛋白がoriCDNAに作用することが示唆されているが, その機能は不明である. これら2種類の蛋白の複製開始における機能を知る目的で以下の研究を行なった. 1.転写産物の解析:oriCDNAを鋳型に用いてRNAポリメラーゼによる転写反応を行ない, 転写物の解析を行なった. oriCに右接する16KD蛋白遺伝子の転写が複製制御に関与する事が知られているが, この転写はDnaAにより抑制される事が判明した. RNAポリメラーゼとDnaAのバランスが転写抑制の程度に影響を及ぼすが, 実際に複製開始反応が起きる条件で転写制御が起さる事が示唆された. 次にoriC近傍での他の転写物を探索した所, oriC内177番目の塩基からunc遺伝子方向に転写が起きる事が判明した. この転写物は蛋白をコードしておらず, DnaAおよびHU蛋白により転写が抑制される. 16KD遺伝子の転写は複製開始に必須でない事が判明しており, 今回新たに見出されたoriC内で開始する転写が複製開始に直接関与している可能性が考えられる. 2.HU蛋白欠損株におけるDNA複製:今本(理研)らによって分離されたHU蛋白欠損株におけるDNA複製の様式を解析した. この株はHU蛋白を完全に欠失しているが生育可能で, oriCから複製開始することが判明した. 核様体の構造異常が見られ, また核様体の分配機構, 細胞分裂機構の異常が観察された. 粗酵素画分での解析から, 他の核様体蛋白が複製開始反応に際してHU蛋白の代りを務めている可能性が示唆された.
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