研究概要 |
脳には不規則な放電活動をしているニューロンが多数存在しており, その統計的性質に関して多くの研究がなされてきた. しかし, この不規則な揺らぎはマクロな大きさである. 本研究では, これを非線形力学系に見られる決定論的な非周期現象として理解することを目的とした. イソアワモチニューロンは, 細胞体に流す直流電流に依存して, 規則的あるいは不規則な自発性放電活動を示す. 不規則放電活動に関して得られた相関次元は2.2であり, アトラクタを再現するのに必要な埋め込み次元は3である. 三次元位相空間のアトラクタとそのポアンカレ断面を調べ, 不規則な放電活動については, 決定論的なカオスが生じる典型的メカニズムである折れたたみ写像の存在を明らかにできた. また, 不規則さが決定論的であることは, 一次元ポアンカレ写像が一価の関数となることからも明確になった. ホジキンーハクスレー型のモデルによるシミュレーションは現在行っている. シナプス加重等を生じない程度のシナプス入力に対するニューロンの応答については, シナプス入力の周期に依存して潜時が著しく揺らぐ場合が観測された. この潜時に関する一次元写像は間欠性カオスの特徴を示しており, 決定論的である. 一方, 細胞体を静止状態にした場合, シナプス電位の応答は揺らがなかった. 従って, カオス的応答は細胞体で生じており, シナプス電位は細胞体の状態を決める要因であることが分った. 脳の情報処理に関連して興味深いシナプス加重等の影響については現在研究を進めている. 以上の結果から明らかになったように, ニューロンの不規則な活動は決定論的である. カオス的活動と脳の情報処理との関係はまだ分っておらず, 今後, ニューロンが不規則活動をも含めて制御可能な決定論的性質を持っていることを念頭に置いて, 脳の活動の理解を深めていくことが必要である.
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