研究概要 |
昭和62年6〜10月に実施された地域住民検診の男性受診者574名(21〜86歳)を対象に, 全血中のセレン(Se), 水銀(Hg), カドミウム(Cd)を測定し, SeとCd及びSeとHgの濃度相関に与える加齢・食習慣・喫煙習慣の影響を調べるとともに, 血圧と血清γーGTP値を指標に, 人体においてもSeがCdやHgに対し生体防御的作用を示す可能性があるか検討を試みた. Se濃度とCd濃度は若年層(20〜39歳)では有意な相関性を示さなかったがCdレベルの高くなる中年層(40〜59歳)から高年層(60歳以上)にかけて有意な負の相関性を示した. 一方, Se濃度とHg濃度はいずれの年齢層においても有意な正の相関性を示した. 魚のように有機水銀を多く含む食品ではその摂取頻度に拘らず血中のSeとHgは高い濃度関係を示したが, 有機水銀の少ないパンや肉のような食品を多く摂取する者では, SeとHgの濃度関係は顕著に低下した. 喫煙習慣はSeとHgの濃度相関に対してはほとんど影響を示さなかったが, SeとCdの負の濃度期間を弱める傾向にあった. 若年層の正常血圧者(WHO基準)においては, 血中Hg濃度の高い者ほど最小血圧や血清γーGTP値は高く, 逆にHgに対しSe濃度の高い者ほど最小血圧やγーGTP値の上昇は抑制される傾向にあった. 中年層の高血圧者(WHO基準, 検尿陰性・未治療)では, 血中Hg濃度の高い者ほど最小血圧は高く, Se/Hg濃度比の高い者ほど最小血圧の上昇は抑制される傾向にあった. 高年層の高血圧者(WHO基準, 検尿陰性・未治療)では, 血中Cd濃度の高い者ほど最小血圧は高く, Se/Cd濃度比の高い者ほど最小血圧の上昇は抑制される傾向にあった. 以上の結果より, 人体においてもSeのレベルはCdやHgのレベルと密接に関連していることが判明し, 対象者の一部において人体内SeがCdやHgに対し生体防御的作用をもつ可能性を示唆する知見が得られ, 女性についても検討を加える必要があると考えられた.
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