研究概要 |
ウイルスは環境衛生の立場からみると水質汚濁物質として重要であるが, ウイルスによる汚染を効果的に防除する方法は知られていない. ウイルスは病原体として重要であるが, ウイルスによる病気には特効薬がなく, ワクチンで予防する以外に対処方法がない. 一方ウイルスは塩素その他の消毒薬に対して強く抵抗することが知られており, 小さいため濾過によって取り除くことも困難である. 筆者らの研究グループにおいて最近開発した不溶性ピリジニウム型樹脂が, 水中に存在するウイルスを強力に吸着捕捉する機能を有することを見出した. このような機能を有する材料はこれまで全く知られていない. 本研究の目的は, この新しい高分子材料を活用して環境中からウイルスを効果的に除去するための新しい手法を開発することである. まずはじめに不溶性ピリジニウム型樹脂を繰り返し仕様する方法を確立する目的で, この樹脂に吸着捕捉したウイルスを脱着させて樹脂を再生する問題から検討した. しかし満足できるような結果は得られなかった. そこで研究計画を一部変更し, 橋かけしていない, 即ち水に可溶性のピリジニウム型ポリマーを合成し, バクテリオファージT4に対する作用について調べた. 可溶性であっても基本的性質は不溶性ピリジニウム型樹脂と類似していると思われるので可溶性ピリジニウム型ポリマーもウイルスを強力に吸着するものと期待した. 不溶性樹脂として用いる表面だけが利用されるので無駄が多いが, 可溶性ポリマーとして用いると無駄なく利用され, 少量の添加で十分ではないかと期待される. 可溶性ピリジニウム型ポリマーとしてポリーN-ベンジルー4-ビニルピリジニウムブロミドを用い, ウイルスとしてバクテリオファージT4を用いて実験したところ, このポリマーが強力なウイルス不活化作用を示すことが分った. 例えば0.5μg/mlの添加で5分以内に99.97%のウイルスが不活化された.
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