研究概要 |
2, 3, 7, 8四塩化パラジオキシン(以下TCDDと略)は極めて毒性の強い物質である. 一方, トリペプチドであるグルタチオンは活性のハロゲンやニトロ基をもつ化合物と抱合体を生成し, 毒性物質の解毒, 排泄に重要な役割を果している. 本研究では, 体内のグルタチオン動態に影響を及ぼすトランス・スチルベン・オキサイド(以下TSOと略)及びブチオニン・スルホキシミン(以下BSOと略)前処理により, マウスにおけるTCDDの発生障害作用がどのように修飾されるかを検討した. JcI:ICRマウスを用い, 妊娠9, 10, 11日(膣栓=0日)の3日間, グルタチオンSトランスフェラーゼ活性を上昇させるTSOを, コーン・オイルに溶解して, 300mg/kg/日を腹腔内に投与した. 妊娠12日(TCDDにより口蓋裂が最も高頻度に誘発される時期)にコーン・オイルに溶解したTCDDの20, 40又は80μg/kgを強制経口投与した. 妊娠18日に胎仔を取り出し, 口腔を含む外表観察の後, 胎仔をブアン液で固定し, 内臓の観察を行った. 各TCDD投与量(単位はμg/kg)での口蓋裂の発生頻度(%)を溶媒前処置群(括弧内)のそれと比較すると, 0(コーン・オイル)群で0(0), 20群で41(50), 40群で91(55), 80群で93(92)と,予想に反してTCDDの口蓋裂誘発作用はむしろ増強される傾向を示した. 生体内のグルタチオン合成を特異的に抑制するBSOは, プロピレン・グリコールに懸濁し, 妊娠12日に200mg/kgを腹腔内に投与し, その直後にTCDDの5, 10又は20μg/kgを強制経口投与した. 観察はTSO実験と同様に行った. 各TCDD投与量での口蓋裂の発生頻度を懸濁媒投与群のそれと比較すると, 0群で1(1), 5群で10(13), 10群で24(38), 20群で76(78)と, BSOの効果は明瞭でなかった. TSO実験と比較すると, 懸濁媒に用いたプロピレン・グリコールにTCDDの口蓋裂誘発作用を増強する効果が認められた.
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