研究概要 |
強い変異原性を持つN-ニトロソ化合物は環境中に広く存在し, 生体内でも食品や医薬品の成分であるアミンと亜硝酸から容易に生成することから,ヒトの遺伝毒性の原因物質の一つである可能性が高く, その変異原性を抑制する因子を検出することはヒトの遺伝毒性の防除の面から重要である. N-ニトロソジアルキルアミンが突然変異を発現するためには, 代謝活性化でα-ヒドロキシ体となることが必要である. N-ニトロソジアルキルアミンの活性体であるα-ヒドロキシ体とその関連化合物によるサルモネラと大腸菌に対する直接的な変異原性をカルボン酸が抑制した. 抑制効果はカルボン酸の濃度が高いほど強く, α-ヒドロキシ体とそのモデル化合物であるα-ヒドロペルオキシ体およびα-アセトキシ体, さらにN-ニトロソアルキル尿素のいずれにも認められた. N-ニトロソ化合物は極性の高い構造ほど強く抑制され, またN-ニトロソアルキル尿素ではアルキル鎖が長くなるほど抑制は強かった. 直鎖のアルキル基を持つカルボン酸ではアルキル基が長くなるほど抑制作用も強かった. カルボン酸の毒性は対照として用いたリン酸緩衝液と差はなく, 菌, 変異原およびカルボン酸が同時に存在する時にのみ抑制作用が認められた. さらにアルキルアミンとアルカンスルホン酸も弱いながらN-ニトロソアルキル尿素の菌に対する変異原性を抑制した. また変異原の分解速度はこれらの化合物の影響を受けず, このことから変異原性の抑制機構は変異原と化合物との直接作用ではなく, 菌体/溶液間の分配を変化させて変異原の膜透過を抑制するためと考えた. しかし, リン酸緩衝液中に比べてカルボン酸およびアルキルアミン, アルカンスルホン酸の添加では変異原性抑制を説明するだけの分配係数の減少は測定されず, これらの化合物による変異原性抑制作用には分配だけではなく複数の機構が関与すると推定した.
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