研究概要 |
酸性雨現象の主要因である硫酸の生成にとって重要な大気中前駆物質であるH_2O_2, SO_3について実環境濃度に近い条件下で, その生成消滅過程を研究するために, 本研究では内容積6m^3の光化学反応装置(既存)に従来からある長光路FTIRに加えて新たな分析手段として波長可片半導体レーザーによる計測手法を加え, 両手法を同時分析できるシステムを設計製作した. これにより減圧下で10^<10>分子/cc程度, 1気圧下ではppbレベルに相当する濃度の微量成分について定量分析することを可能ならしめた. この計測システムを用いて, 雨水中におけるSO_2の酸化剤として最も重要なH_2O_2の生成について, CH_4+Cl_2, HCHO+Cl_2, H_2+Cl_2/空気系の光化学反応をモデル反応系として用い, その生成反応の機構の詳細を明らかにした. 特に新しい成果として, 従来定量分析が困難であった大気中微量H_2O_2の量を初めて定量分析できたことにより, H_2O_2生成濃度がこれまでに知られている反応とその反応速度定数から成る大気化学反応のモデル計算で予想される値より1/4〜1/5程度に小さいことが判った. その絶対生成量及び生成曲線の形を最も良く説明するためにはH_2O_2生成の前駆体となっているHO_2ラジカル(2HO_2→H_2O_2+O_2)について, 新らたな消滅過程を考える必要があることが示唆された. この消滅過程におけるHO_2カジカルの寿命は約5秒程度と見積もられ, この程度の値でH_2O_2生成が大きく左右されるということはHO_2カジカルの均一(気相)反応が全体としても遅く, 実環境大気中にあってもHO_2カジカルの雨水やエアロゾルによる不均一除去過程が無視できないことを意味しており, 大気化学上重要な成果である. 一方, SO_2の直接酸化過程で重要な中間体となるSO_3についてはFTIR-流通反応系を用いた実験においてH_2O+SO_3→H_2SO_4の反応が極めて速いことを見い出したが, まだ定量化には至っておらず, 今後さらに検討が必要である.
|