研究概要 |
安定な純有機ラジカルで, 分子間に強磁性的な相互作用を示すものは, 非常に限られている. 本研究では, そのように限られた中で最も典型的なπ-ラジカルとしてガルビノキシルを取り上げ, その強磁性的な相互作用が, 如何なる条件のもとに発現しているかを調べることを目的として, 磁気測定, 熱測定, 電子状態の計算などを行った. ガルビノキシルの結晶は室温から85Kまで強磁性的な分子間相互作用を示すが, 85Kにおいて相転移を起こし, 友強磁性的な相互作用の相になる. このため, 低温での研究が阻害されていた. この相転移を抑え, 極低温において強磁性的相互作用を調べる目的で, ガルビノキシルとヒドロガルビノキシルの種々の混合比の固溶体をつくり, その磁化率の温度依存性を測定した. その結果, 固溶体においては相転移が抑えられ, 極低温まで強磁性的相互作用が維持されていることが明らかとなった. これらの固溶体の2Kにおける磁化の磁場依存性は, 低磁場で急速に立ち上がり飽和して行き, 固溶体内のスピン系がスピン多重度のかなり高い状態にあることを示す. この高スピン状態は, いくつかのガルビノキシル分子の不対電子が, 相互に強磁性的に結合していることによるもので, 観測された急速な飽和は, 強磁性的分子間相互作用の確実な証拠となる. また, 磁化曲線の解析から, ガルビノキシルの強磁性的相互作用が多分子間に一次元的に働いていることが明らかになった. 同じ資料での熱容量の温度変化の測定と解析を行った結果, 熱的挙動は磁気測定の結果とよい対応を示すことが分かった. 開殻INDO法による分子軌道計算の結果, ガルビノキシルで見られた強磁性的相互作用という特異な性質は, 分子内の強い交換相互作用が軌道の重なりを通して, 分子間に広がったことにその本質があることが判明した.
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