研究概要 |
高分子ゲル材料から生体筋肉に匹敵する収縮強度を持ち, 収縮速度の速い人工筋肉材料を開発するには, 弾性率が高く, 繊維直径の細いゲル繊維を作製する必要がある. そこで炭素繊維を製造するのに一般に使用されている直径約23μのポリマクリロニトリル(PAN)繊維を利用し, PAN繊維を約200°Cで熱処理および加水分解することにより, PAN系ゲルを作製した. このように作製したPAN系ゲルは酸/アルカリ(1NのNaOH/1NのHCl)溶液交換により収縮応答し, この時の応答速度は約1秒と速く, 発生応力も約20kg/cm_2に達した. このPAN系ゲルのpH変化による伸縮挙動を調べると, pH約3で収縮し, pH約11で膨潤するヒステリシスを描く. このPh領域における発生応力, 弾性率の時間依存性において収縮力はpHを変化するとすぐに発生するが, 弾性率は収縮応力がほぼ飽和する時間から増加し始める. これはゲルが収縮し分子鎖同志が接近し, ゲル中のカルボキシル基とピリジン環との間に大きな静電的相互作用が働き, 凝集構造がより強固になり, 弾性率が大きく増加したものと考えられる. pH11付近では, このゲル中の静電的相互作用による分子鎖間の凝集が破壊され, 膨潤するため弾性率, 応力とも同時に減少する. そこでこの分子鎖間の静電相互作用を断切するためNaClを加えてpH変化を調べると, pH11付近の伸縮応答は消滅し, pH3付近でのみ伸縮応力し, ピステリシス曲線は描かなくなった. すなわち, 生体筋肉のミオシン/アクチン系でカルシウムイオン濃度変化による収縮応答性と良く似た挙動が, PAN系ゲル繊維でもpH変化により可逆的に伸縮応答し, 大きな収縮強度を示す.
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