研究概要 |
本研究課題では, 高分子液体における比較的遅いミクロブラウン運動によってセグメント間隙に生成する自由体積の急冷により非平衡状態のガラス状態に瞬時に凍結し, 高分子ガラス中に, 分子オーダーのミクロボイドの作成を目的とする. このさい液体状態の温度を適宜変えることにより自由体積を制御し, その結果として急冷処理により凍結された非平衡ガラス状態でのミクロボイドの制御を行いたい. 液体状態である. 120°Cより室温に徐冷したPS膜と, 液体窒素を用いて急冷したPS膜の酸素・窒素に対する25°Cでの透過係数の圧力依存性を測定した. 両試料とも25°Cではガラス状態であるので部分不動化モデルに従う圧力依存性を呈している. 急冷処理をしたPSの酸素・窒素の透過係数の値は徐冷PS膜のそれと比較して, それぞれ3.7倍, 3.6倍の増加が観察された. この結果は液体状態からの急冷により生じたミクロボイドを多く含む疎な構造が気体の溶解性・拡散性を高めることに反映し, 透過性が向上したと考えられる. このような膜構造は酸素・窒素の分離性にも有効に寄与し, 透過性の向上にもかかわらず分離性の減少を抑制するのに有効に寄与しているようである. CN, PSF膜の場合にもPS膜と同様の結果が得られ, 100°Cからの徐冷CN膜と比較して液体窒素を用いて急冷した急冷CN膜の25°Cでの酸素・窒素の透過係数は約2増加し, 酸素・窒素の分離性に関しても良好な結果が得られた. 以上の結果はミクロボイドの量によって議論されなければならないが, ここではガラス化によるミクロボイドの制御が目的であるので, 間接的に透過係数の圧力依存性で説明した. ミクロボイドの量が低圧と高圧の透過係数の差に反映されており, ミクロボイドの制御の可能性を示唆している. 今後, 種々のガラス状高分子膜への気体の収着実験からミクロボイドの定量化を行い, その制御の確立を行う予定である.
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