研究概要 |
本年度の研究は, 主として超伝導性発現の分子論的機構の解明に焦点をしぼって行なった. 以下にその大要を述べる. これらの成果を酸化物等, 新高温超伝導体の理論設計に応用すべく, 現在検討を進めているところである. 1.厳密な振電相互作用ハミルトニアンを導入し, 超伝導電子クーパー対の新しい生成機構を発見した. 通常よく知られている超伝導のBCS理論の基礎となっている電子-フォノン相互作用においては原子核の平衡位置からのずれが引金となってクーパー対が形成されるが, 本研究の基礎となっている振電相互作用においては, 原子核と電子の非断熱相互作用を取り扱っているので, 平衡位置においても両者の間に運動量のやりとりが起こり, クーパー対の形成が促される. 2.上述の新機構は試料サイズがある大きさを越えるときわめて顕著となることを見いだした. これはデバイス作成の際に極小超伝導回路設計の指針を与える. さらにドーピングによる骨格変形や電子状態の変化, 及び同位体置換による分子振動の変化により, 振電相互作用がコントロール可能であることを予測し, 実際ポリアセチレン(CH)_xの分子モデル系に適用し, これを実証した. ポリアセチレンそのものの超伝導試料は合成されておらず, また超伝導体として知られているポリチアジル(SN)_xと比してその振電相互作用も格段に小さいことが計算されたが, 上述の改変を通して新しい超伝導性発現の可能性が示唆された. 3.振電相互作用に関与する電子の軌道と原子核振動モードの組み合わせは選択則により規定されることから, 電子輸送には振動モード特異的な促進作用や阻害作用が生ずることが予測され, 理論計算によりこれを実証した. 以上の他にも電子輸送能の電子密度汎関数理論を構築し, 超伝導性発現に対する新しい視点を見いだした.
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