研究概要 |
本年度は抗生物質に類似したイオン輸送能をもつクラウンエーテル類の光によるコントロールを中心に研究した. クラウンエーテル類はアンモニウムイオンと強い錯体を形成する. この性質を反映して, アゾ基の両端に18-クラウンー6とアンモニウム基をもつクラウン化合物は興味ある光応答挙動を示す. トランス体の時には, クラウン環とアンモニウム基は分子内で錯化できないが, 紫外線照射により生成するシス体は適当なスペーサーが存在すると分子内錯体を形成する. トランス体は通常のクラウンエーテルと同様にアルカリ金属イオンに親和性を示すが分子内錯化したシス体はアルカリ金属イオンに対する親和性が全く消失することが明らかとなった. この光刺激によるトランスーシスの可逆的変換を利用して, 光によるイオン抽出のコントロールや膜を横切るイオンの透過速度のコントロールが可能となった. 特に「光でイオンを集める」という現象は, 光制御系の新概念として興味深い. クラウンエーテル類の認識機能は, クラウン環径とゲストとなるイオンのサイズの適合性に一義的に支配される. したがって, クラウン環内に立体障害となるスペーサを導入しておけば, ゲストの接近は妨げられる. これに対し, スペーサを外部よりの刺激で除去すれば, クラウンエーテル本来の機能が回復する. このような予測に基づいてアゾ基を環内にもつクラウンエーテルを分子設計した. 期待されたように, トランス体はNa^+に対し全く親和性がないが, アゾ基を光異性化して取り除いたシス体はNa^+と10^4M^<-1>の会合定数を与えた. この光応答性クラウンエーテルをキャリヤーとする膜は, Na^+の透過速度を光でコントロールすることが可能であった. すなわち, 暗条件下ではNa^+は全く輸送されないが, 紫外光照射下ではジベンゾー18-クラウンー6よりも速い輸送速度が観察された.
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