研究概要 |
ピラジン, ピリミジン等のアザ芳香族化合物はけい光減衰曲線が速い成分と遅い成分の二つの指数関数の和で表され, 典型的な中間ケースに属する分子としてよく知られている. 本研究では常温バルク状および超音速ビーム中での実験によりこれらの分子のS1の各振動回転準位を励起し, 生じるけい光の偏光特性および外部磁場効果を観測することにより, 分子内緩和過程等に関する次の知見を得た. 1.ピリミジン, S-トリアジンではS1の過剰振動エネルギーが〜1000cm^<-1>を越えるとS1内の分子内振動再分配過程(IVR)が起こり, その結果としてブロードなけい光が観測される. このけい光の偏光度スペクトルと理論的に求められるスペクトルの比較から, これらの分子のIVRにおいてはK(全角運動量の分子軸方向成分の回転量子数)のスクランブリングが起こることが明らかとなった. 2, 超音速ビーム中においてピリミジンのS1の各振動回転準位を光励起して得られるけい光減衰曲線は, 観測されるけい光の偏光方向が励起光の偏光方向と平行および垂直方向では異なり, いわゆる異方性減衰が観測された. 同時に観測されたゼーマン量子ビートとの比較から零磁場で観測された異方性減衰は分子の内部磁場に基づくものであると結論された. 内部磁場の存在は観測されるけい光の偏光度(P)を計算値と比較することによっても示された. すなわち遅い成分のPは計算値よりもいづれも零に近く偏光が解消されていることがわかった. 一方速い成分に関しては零磁場での偏光解消は観測されていない. これらの結果から, 零磁場で観測される偏光解消および異方性減衰は内部磁場に基づくものであること, ただしその内部磁場の大きさは速い成分の偏光度に影響を与えるほど大きくはないことが明らかになった.
|