研究概要 |
1.日本語の基本的リズム原理を調べるための一環として, 詩歌朗唱の音声を取り上げ, 百人一首の和歌から数首を選び, 数人の学生および教官にかるた取りの読み方で朗読させて録音した. その速さについては普通の速さの他に速くおよび遅くと3段階を指定し, それぞれの速さにつき3回ずつ読ませた. 選んだ歌は, 普通の字数のもの1首と, 字余りのある歌3首である. 2.これらの録音データをソナグラフで分析して音韻長を求めた. またピッチパタンはビジピッチ等で分析し, 節回しの型や傾向について分類した. 3.音韻長の測定から以下のことがわかった. 普通の速さで2モーラ1拍型の拍節リズムが極めて明確に認められ, 速い速度ではモーラ等長型に移行する. 上位のリズム単位として詩行(呼気段落)が認められるが, 詩行がリズム単位と感じられるのは, 下位の単位のような物理的等時性によるのではなく, 段落末の基本周波数パタンや強さのパタンによっていると見られる. 4.和歌の朗唱などでは段落末にリタルダンドがかけられ, 1モーラが1秒近くになることがあり, 規則合成音声でこれを実現する際にゆらぎを付けないと極めて不自然な声になる. これを避けるにはバズ音源となるパルス列の周期を搖らしてビブラートを付けるのが効果的と考えられるが, 8KHzサンプルのパルス列における周波数設定は100Hz付近では約1Hzのステップとなり, 連続的に滑らかなビブラートを付けることができない. しかし, 階段状のビブラートでも毎秒4〜6回の速さになると支障がなく, 固定周波数による不自然感の軽減に十分効果があることを実験によって確認した. 5.極めて速い朗読音声を合成する際, 口の動きのなまけを考慮する必要があり, 母音のフォルマントを中性化の方向に移動させることにより, 一応の効果が確認できた. しかし, この操作だけでは実際のテキスト朗読音声の不自然感軽減の役に立たないことが判った.
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