研究概要 |
団体表面構造の解析に最も有力な手法の一つである高速電子線回折の透過法を適用する場合における多重散乱の問題を調べた. 多重散乱効果は表面層での散乱によるものではなく, バルク結晶内での動力学的散乱効果によることから, 比較的簡単な解析的表現が可能であることを示した. 一般に多重散乱効果による回折強度は構造因子の位相を陰に含むが, 高速電子線回折の透過法では, 多重散乱による回折強度が解析的な表現で与えられることから, 表面構造の位相の情報が単純に得られる可能性を示した. 透過電子回折法による表面構造の解析は, これまで少数の限られたグループでのみ超高真空化された電子顕微鏡を用いて行われて来たが, 本研究では上記原理にもとづく表面構造の解析を行うため, より簡便な回折装置を新に開発した. 本年度はこの装置を用いてSi(III)√<3>×√<3>-Ag構造の解析が行われた. この構造はこれまで種々の実験手法による研究にかゝわらず結着のつかめぬ構造である. 現在提案されている最も有力なTrimerモデルとHoneycombモデルは非常に類似した回折強度を与えるので, 単純な透過電子線回折法ではその判定が難しい. そこで上記原理にもとづく位相情報を取り入れた解析法をこの表面構造に適用した. 即ち, 入射波が(224)Bragg反射を強く励起した条件下での√<3>×√<3>構造回折強度の試料厚依存性を測定した. これはBragg反射を用いた一種の位相差法とも呼べるべきもので, 結果は√<3>×√<3>構造の単位胞内にTrimerモデルで提案されている方位を向いた三角形状クラスターの存在を明らかにした. しかし, この三角形状クラスターがAgによるものかSiによるものかの判定はより詳細な強度の解析が必要であり, この目的のためのテレビ映像を用いた強度測定およびパソコンによる強度解析の試みが進められている.
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