研究概要 |
低速電子線回折(LEED)によるI-V曲線の動力学的解析と角度分解光電子分光(ARUPS)によるスペクトル曲線の角度依存性から, 単結晶表面の原子的構造並びにその上に吸着させた金属原子層の吸着構造と電子状態の解明を行っている. 今年度の科学研究費により副チャンバーと試料交換装置を製作し, 種々の金属を蒸着できるようになっただけでなく, 超高真空実験装置に試料を挿入設置する際の所用時間を大幅に短縮した. S_2(111)面上でのFe蒸着膜についてLEEDI-V曲線の測定及び動力学的回折強度計算による解析により, 室温でエピタキシャル成長して(1×1)LEEDパターンを示すFe蒸着膜の単原子層の段階では, Fe原子は表面第1層のSi原子の真上に付着している可能性の高い事がわかった. またこの膜を高温でアニールするとより安定な位置に移動して(2×2)パターンに変化するが, ARUPSの測定より, 電子状態が高結合エネルギー側へシフトする事, 及び結合にあずかる電子状態に対応するピーク強度のフォトン入射角, 放出される電子の出射角(極角及び方位角)依存性に興味ある現象が観測され, 吸着構造との関連で現在解析を進めている. 一方, MgO(001)面上のFe蒸着膜についても解析を進めた結果, 最初Fe原子は表面第1層のOイオンの上に付着して基板と同じ周期の構造を形成する事, 膜厚が10〓位になると体心正方格子(bct)から体心立方格子(bcc)構造に変化し始める事, この時点でFe原子の価電子帯の電子状態にも変化の起る事がわかった. 今後, 装置をさらに改良し, MgO(001)面上のFe蒸着膜のARUPS測定を行って電子状態の変化を確かめると共に, 基板結晶や蒸着金属の種類を変えて研究を進め, 固体表面に形成される単原子層程度の膜の原子的構造を決定する要因を明らかにして行きたい.
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