研究概要 |
本研究は外洋域の溶存有機窒素(DON)の鉛直分布を湿式酸化法(湿式法)と最近開発された高熱触媒分解法(乾式法)を用いて精査することにより, これまで判然としなかったDONの深層循環を解明することを最終的な目標とした. そこで, 今年度は湿式法と乾式法の比較を行って, 方法論的な矛盾をまず解決するため, (1)上記2法をもちいて溶存全窒素(TN)分析値の比較, (2)DON, TN及び溶存無機窒素(DIN)の外用域における鉛直分布, (3)みかけの酸素消費量(AOU)と硝酸態窒素(NO_3-N)及びAOUとDONの相関関係の3点について検討を加えた. 以下に得られた成果の概要を述べる. (1)湿式法として過硫酸カリウム酸化法を, 乾式法としてスミグラフN-200(住友化学工業K.K)を用い, 北太平洋の3観測点から採取された0〜2000mの海水について, TN濃度を測定した結果, 両法による分析結果は統計的に3%の変動係数内で一致することがわかった. (2)北東太平洋(48°00'N, 136°00'W), 北西太平洋(33°50'N, 140°00'E)及び相模湾(35°10'N, 139°20'E)の3観測点におけるDON濃度は, 鉛直的に変化の乏しい分布傾向を示し, それぞれの観測点の平均濃度は3.2〜6.7ug-at/lの範囲であった. 各点におけるDONの鉛直変化は平均濃度に対して約25%の変動を示した. 従って, この濃度変動内で鉛直的に一様な分布を示すと言える. (3)DINとAOUとの間には正の相関がみられた. 一方, DONとAOUの間には正負の相関はなく, 鉛直分布傾向からもわかるように, AOUの変化にDONはほとんど関与していないことがわかった. 本研究結果をまとめると, 海水中のDONに関してこれまで用いられてきた湿式法と最新の乾式法の結果には本質的なくい違いはなく, また, 外洋域におけるDON濃度は鉛直的に変化が乏しい事から, 深層中では比較的安定成分として存在しているものと考えられる.
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