研究概要 |
本研究は氷生成を伴うような寒冷海域において, 全大洋の底層を占める高密度海水がどのように形成されていくかを明らかにすることを目的としている. この目的のために, 低温実験室における水槽実験, 野外における実験観測, モデルによる考察などを実施した. 1.低温実験室における水槽実験:風を吹かせることのできる低温実験水槽(0.4×2.0×0.6m)を用いて, 気温(-10〜30°C)や風速(2〜6m/s)を変えて種々の海氷生成環境を作り出し, 厳寒条件下や強風条件下の氷生成およびブラインの排出過程を調べた. 生じた氷結晶(フラジルアイス)は風下に吹き流されて水面が長期間維持されて, 氷およびブラインの高生産率を持続する. 吹送撹拌によって氷生成を伴いながらも約2度の過冷却が生じているのを測定した. 静かに結氷する場合と比較すると, 数倍の氷生産が起ることを知った. 2.サロマ湖海氷での現場実験観測:1988年2月にサロマ湖(塩湖)の天然結氷を利用した現場実験観測を行った. 湖面結氷とその氷を切り取って作ったプールの薄氷とで氷温と塩分の推移を測定し, 海氷からの塩排出を見積った. また, 湖面結氷に穴を開けてビデオカメラを沈め, 天然海氷の下面から流下するブラインの姿を観察した. 着色したブラインや低温高塩分のブラインを人為的に加え, ブライン流下の様子を可視化して捕えた. ブラインを受けとめる装置を氷の下に入れて注射器でブラインを採取した. ビデオ映像の解析はこれから行うが, 天然海氷の下面から間欠的に流下するブラインや, 海氷下面に垂れ下がるスタラクタイト(中空氷柱)の撮影に成功した. 3.高密度海水の形成モデルの研究:実験結果を考慮しながら流下ブラインと下の海水との混合過程に関する考察を行った. 重い海水を効率よく生産する条件などについて今後は考究したい.
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