研究概要 |
非保存性物質によって決定される海水の年令分布は, 海洋の深層循環等の時空間スケールの大きな流動のトレーサーとして有効である. この年令分布と, 流動・拡散の関係を, 1次元と2次元の基礎的な解析モデルおよび数値モデルによって調べた. 1次元モデルでは, 境界のない場合には, 年令の空間的変化に拡散の影響を表れず, 年令の勾配は直ちに流速に換算できること, 境界がある場合には, 境界付近で年令の勾配が流速から期待されるものとは異ってくること, この影響範囲はペクレ数(拡散時間と移流時間の比)が小さいなど大きいことがわかった. 2次元モデルでは, 閉じた正方形領域で循環流を考え, 1つの隅に物質の出入口がある場合と, 1辺全体が出入口になっている場合の2通りを考えた. 前者の場合, ペクレ数が大きくなると年令分布から循環の向きは判定できるが, 流速が直ちにわかるのは特定のペクレ数の場合に限ること, 後者の場合は, 出入口と反対側の辺における流速は, ペクレ数が10程度以上になると年令分布から直ちにわかることなどがわかった. これらの結果の一部をフィリピン海盆の深層水の循環の問題に適用した. その結果, これまでに得られている知見や理論により推定される輸送場から判断すれば, 同海盆における年令分布から循環の向きや流速のオーダーは求め得る筈であることがわかった.
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