研究概要 |
隕石の衡突で形成されるクレータの頻度分布は, 隕石供給源としての太陽系内の力学的状態を解明するカギであるのみならず隕石衡突史を時間目盛とした年代学として, 表面の写真しか入手できない惑星について, そのテクトニックス解明にも有用である. クレータ年代学の従来の時間目盛は, 月面上の古いクレータだけに基いて作成されていたので, 最新の調査に基いて, 地球上のクレータについてのデータも用いて, クレーター年代学の見直しを行った. その結果は次の通りである. (1)地球, 月の両方のデータが合理的につながって理解できるためには, 隕石衝突率は従来, 考えられていたような時間的になめらかな減りではあり得ない. (2)約40億年前, 20億年前および現在という三つの時期に, 数億年経続されるスウォーム(群発)があり, 中間の時代には隕石衝突率は極めて小さい. (3)最近のスウォーム(約6億年前から始まり現在も経続している)は, 単純なインパルス的なものではなく, 約35億年前に, 特に隕石衝突率の高い時代があったと推定される. (4)このような時間的に変動する隕石衝突率に基いて作成した新しいクレータ年代標準カーブによると, まだデータのない月のコペルニクスクレータは20億年(従来の推定では9億年)前の形成, ノースレイは15-20億年前の形成であることが, 示唆された. (5)単位面積当たりの隕石衝突率を月と地球について比較した結果, 地球の方が, 数倍大きな衝突率を有することがわかった. これは, 質量の大きい地球の衝突断面積が大きい効果だけでは, 説明しきれない程度である. この原因は, 月・地球系での隕石フラックスが, 比較的低速であることにより, 衝突速度に脱出速度分の効果が加わったものであることを示している. (6)(5)の結果, 地球へ衝突する隕石は, 高速のコメット起源のものでなく, 低速入射する小惑星起源のものが主であると推定された.
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