研究概要 |
高分子錯体に独特な弱い配位系を対象に, その相互作用を動的に把え, 高分子錯体の基礎知見を確立することが目的である. 錯体部周辺環境を構成する高分子のコンホメーション変化に伴う弱い配位錯体系の動力学を, 固相および溶液状態において理論と実験の両面から解明するとともに, 歪錯体, 大環状錯体, π配位錯体において, 錯体部を標識とした動的解析に新しい方法論を駆使して, 高分子錯体に特有な動的相互作用を明らかにする. 62年度は次の成果を得た. (1)リン脂質集合体や高分子マトリックスに配向固定されたポルフィリン鉄錯体を対象とし, 主として高速分光法を活用して動的挙動を解析, ヘモグロビンと似た弱い配位系として特徴づけた. また, 酸素結合様式が, end-on/bent型と確認した. (2)ポリイメドやPMMA中での, テトラフェニルポルフィリンの極低温レーザー光観察により, ホール形成能, 安定性がマトリックス高分子のゆらぎや自由体積分布に支配されていることを明らかにした. (3)水溶液中の電解質, 糖やアミノ酸の錯体について局所構造解析法を確立し, 溶質-溶質および溶質-溶媒相互作用を分子動力学の立場から考察した. (4)高分子ポルフィリン錯体, 金属酵素モデルの歪んだ微細構造と電子状態のゆらぎを, ESスペクトルの極低温からの温度変化として測定する方法を確立, その線形解析から弱い動的相互作用に関する情報を整理した. (5)5, 6族遷移金属触媒による置換アセチレンの重合反応において, モノマーの立体および電子効果を弱いπ配位錯体のリビング特性と相関づけた. 63年度はさらに, 高分子錯体の弱い配位構造が, 高分子部の高次構造とどのように相互作用しているか, 解明をすすめる計画である.
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