研究概要 |
本研究は, 酸化還元サイトをもつ高分子錯体を薄膜として電極上に導入し, 電極/高分子錯体膜界面に電場印加することにより多電子移動過程を伴う反応系を構築し, そして電気化学的各種高速パルス法により高分子錯体薄膜における多電子移動過程を定量的に明らかにすることを目的としている. 測定系として, (i)ポリアルキレンビオローゲン(PAV)/ポリ(P-スチレンスルホン酸)(PSS)高分子錯体膜被覆電極系, (ii)ペンダント型ピオローゲンポリマー(PMV)膜被覆電極系, および(iii)電解重合膜被覆電極系を用いた. PAV/PSS膜は, ビオローゲンの酸化状態が2価【double arrow】価(V^<2+>【double arrow】^+)および1価【double arrow】価V^+【double arrow】^0)に相当する2つの酸化還元波を与え, 電極電位を規制することによって, 2電子(V^<2+>→V^0)あるいは1電子反応系を設定することができる. 当研究で試作した高速パルス法により, 電子移動反応に関連する速度論的パラメータ(標準電極反応速度定数(K^0), 移動係数(d)および膜内での電子移動に対する見かけの拡散係数(Dapp)を評価した結果, それらの値はPAVのアルキレン鎖長(m)によって異なることがわかった. Dappの値は, Dapp(V^+→V^0)Dapp(V^<2+>→V^0)Dapp(V^<2+>→V^0)の関係になっている. Dapp(V^<2+>→V^+)はmに依存し, mが奇数の時のDapp値は偶数の時のそれよりも大きい. このような依存性は, ビオローゲンサイト間の相互作用の違いを反映していると考えられ, そのビオローゲンサイト間の配向および相互作用の違いは分光学的に確認された. K^0, Dappおよび式量酸化還元電位の温度依存性を検討した. KoとDappに対する活性化エンタルピーとエントロピーの間には直線関係が成り立ち, "isokinetic temperature"は両反応とも約-63°Cであり, 常温ではエントロピー支配になっている. さらに, ポリ(フェニレンジアミン)などのレドックス活性電解重合薄膜における電子移動反応を定量的に取り扱っている.
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