研究概要 |
我々は, 世界に先駆けてDioxo〔16〕aneN_5のニッケル(II)錯体が, 分子状酸素O_2と相互作用を持つこと, 及び, その分子状酸素を活性化して, ベンゼンをフェノールに直接変換することを発見した. しかし, その錯体は, O_2活性化過程においてリガンドの自動酸化を受けること, その酸化分解物はO_2活性化能を持たないこと, したがって, このシステムを用いたベンゼンのフェノールへの酸化的変換には, 抗酸化能を持ったリガンドの開発が必要なことが分った. そこで, 我々は, 配位子の自動酸化を防ぐため, Dioxo〔16〕aneN_5のマロン酸メチレン部の水素を2つともメチル基で保護した新しい配位子を新たに合成した. そのニッケル(II/III)錯体の酸化還元電位は, +0.17Vvs.SCEで, 無置換体(+0.24V)よりもさらに低くくなった. ジメチル体を用いたベンゼンのフェノールへの酸化反応を行ったところ, 低収率ではあったものの, フェノールの生成を確認した. したがって, メチレン水素の引き抜き反応(自動酸化過程)は, O_2の活性化には必須ではないことがわかった. 今後は, 置換基としてアルキル側鎖の長いものを合成し高分子ミセル中でのO_2活性化能について詳しく検討していく予定である. 導電性ポリピロールやポリチオフェンは, 生体内電子伝達系に見られるようなスムースで連続的な電子輸送機能を持つことが知られている. 従って, 大環状ポリアミン金属錯体をそのドメイン中に固定化して相互作用を持たせると, 新らしい酵素類似機能の開発が期待される. そこで, 我々は, 酸化的高分子化可能な置換基として, フェノールやチオフェンをペンダントとして有する新しい大環状テトラアミンを合成した. 今後これら配位子の高分子化やモノマーとしての錯体の性質について詳しく検討する予定である.
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