研究概要 |
マウス・メラノーマ(B16)系を用いて, 腫瘍抗原の同定とその化学構造の決定を行ない次の結果を得た. 1.メラノーマ抗原はGM3(NeuAc)と蛋白の複合体により構成され, その立体構造が抗原性を発現するのに重要である. 特に同系免疫によって得た抗メラノーマ抗体(M2590)が認識するエピトープの一次構造はGM3(NeuAc)であり正常のそれと同一であった. この抗体はGM3をもつ正常細胞と反応せず, GM3濃度が8-12md%以上の場合にのみ反応性を獲得することをリポソーム・溶解反応系で明らかにした. よって, GM3の立体構造がメラノーマ抗原性をもつことを示した最初の例となり, がん抗原の概念に新らしい考え方を導入した. 2.一方, M2590抗体の親和性はGM3-lactoneまたは可溶性メラノーマ抗原に対してKd=1μg/mlであるが, GM3に対してはKd=7μg/mlと低くGM3がLactone様構造をとることが抗原性の発現に重要であることが示された. 3.抗原構造をキラーT細胞系で調べた場合にも抗原がGM3と蛋白分子の複合体であるとこを強く示唆する結果をキラー活性阻害試験から得た. 4.メラノーマ細胞から可溶性抗原が分泌されることが明らかとなったが, これを担がん動物に注射するとメラノーマ特異的腫瘍増殖を惹起した. これは可溶性抗原が選択的に抑制T細胞を誘導したためであることをin ritro一次反応で確認できた. さらにこの抑制T細胞が認識するエピトープはGM3(NeuAc)であり, GM3-リポソームでも抗メラノーマ抑制T細胞を誘導できた. このことは,通常自己成分に対して免疫寛容を維持する機構が, がん細胞の免疫からのエスケープ機構になっていることを示唆した. 5.メラノーマ抗原の蛋白を認識するモノクローナル抗体を用いてB16細胞由来のゲノムライブラリーをヒjnラノーマに導入発現させ, FACSによる選別in vitro packagingにより抗原の発現に関与するゲノムDNAのクローン化ができた.
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