研究概要 |
1.研究目的: 代表的な優性遺伝性腫瘍の一つである多内分泌腺腫瘍症2A型(MEN2A)を研究対象として, この疾患の原因遺伝子の染色体上の座位を明らかにし, さらにその原因遺伝子を単離することを目的とする. 2.研究方法: 62年度の前半は, (1)MEN2Aの遺伝子と密接な連鎖を示すプローブを見つける手段として, 甲状腺髄様癌や褐色細胞腫でloss of heterozygasityを示すプローブを捜すことに重点を置いた. ところが, 1987年8月に本疾患の遺伝子が10番染色体上のプローブIRBPおよびD10S5と連鎖していることが報告された. そこで, 本年度の後半は, (2)わが国の家系でもIRBPとの連鎖がみとめられるのか否か. および(3)IRBPその他の10番染色体上のプローブを用いた場合, 甲状腺髄様癌や褐色細胞腫でのloss of heterozygosityはどの程度の頻度で認められるか. の2点に研究の焦点を絞った. 3.研究成果:(1)22番染色体上の4種のプローブを用いて, MEN2A型の甲状腺髄様癌13例および褐色細胞腫5例を検討した. プローブD22S9では甲状腺髄様癌患者の9例がheterozygoteであったが, その内の1例の甲状腺髄様癌がloss of heterozygosityを示した. 褐色細胞腫では, D22S1につき3例が, D22S9では2例がそれぞれheterozygoteであったが, それらの内の2例および1例が腫瘍でallele lossを示した. (2)わが国のMEN2A家系でのIRBPとの連鎖検定では, lodscoreはまだ有意ではないが大部分の家系で連鎖していることが分かった. (3)IRBPについて, 腫瘍におけるloss of heterozygosityは甲状腺髄様癌28例中のheterozygote14例の内わずか1例のみに認められた. また褐色細胞腫12例中heterozygoteは4例あったが, allele lossは認められなかった. 今後われわれはIRBP遺伝子を手がかりとして, 原因遺伝子にさらに近いDNAマーカーを得るべく研究を進めたい.
|