研究概要 |
がん細胞の表現形質発現におけるアクチン関連蛋白質の役割について検討し, 次の如き研究結果を得た. 1.細胞膜裏打ち蛋白質でるあるリポコルチン関連蛋白質として, ヒト胎盤膜から, 32K-1, 32K-11, 36K-1, 36K-11, 36K-C, 36K-1および68K-11の蛋白質を抽出, 精製し, それぞれについて, 物理化学的性状, アクチン結合性, リン脂質結合性, ホスホリバーゼ阻害活性, 種々のプロテインキナーゼによるリン酸化の基質性等を決定した. 2.コンピューターを用いた画像解析により, 細胞の運動量を定量する方法を確立した. この方法によって煩雑であった細胞運動の定量が非常に迅速で容易なものとなり, また細胞の複雑な動き, および細胞の一部分のみの運動を測定することも可能となった. この方法を用いて, 増殖刺激によって誘導される形態および運動性の変化, および, がん細胞の運動亢進を明確に定量的に測定した. その結果, 細胞の増殖誘導に密接に関連する運動が細胞辺縁部に起こること, そして, この運動はアクチンフィラメントとフォドリン蛋白質の高次構造の変化を伴うことが判明した. 3.細胞運動に関する細胞変異株としてA31-1-13およびTR4を分離した. A31-1-13は細胞辺縁部運動の, TR-4はTPAによる円形化の変異細胞であった. 4.ヒトβ-アクチン遺伝子第一イントロン内のエンハンサー19塩基対が血清による転写誘導に必要十分な配列であることが判明した. 5.がん遺伝子の検索細胞系として世界中で使用されているN1H3T3細胞に代わる細胞をハムスター胎児細胞から分離した. この新しい細胞系を用いることによって, ヒト甲状腺がん細胞, ヒト大腸がん細胞, およびがん化したヒト線維芽細胞からがん遺伝子を分離した. これらのがん遺伝子は従来知られていなかった新しいものである.
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