研究概要 |
ヒト白血病ウイルス(HTLV-1)は成人T細胞白血病(ATL)の原因ウイルスである. その遺伝子上のPX領域存在するtax遺伝子は, 感染細胞の細胞増殖因子受容体の遺伝子発現を促進することから, 白血病発症に係わり合う重要なものと考えられる. このtax遺伝子は一方, HTLV-1の増殖にも必須である. 白血病発症の前段階でウイルス増殖がどのように制御されているかを理解する目的で, taxともう1つの制御遺伝子rexの作用機作について研究を進めた. またウイルス感染防御および増殖阻止のための基礎実験を行った. 結果は次のによにまとめることが出来る. (1)tax遺伝子産物p40(tax)はHTLV-1のエンハンサーに依存してウイルス遺伝子の転写活性を増強するが, 直接エンハンサーには結合しない. エンハンサーに結合ずく細胞因子が検出されたので, この因子を介してエンハンサーを活性化するものと推定される. (2)pXのもう1つの遺伝子rexは転写後のRNAに働いてそのプロセシングを修飾する. これによりgagおよびenuを作るmRNAの量をコントロールする. この作用は欠損型および完全型ウイルスDNAを用いて示された. (3)taxとrexの機能のバランスがウイルス増殖に極めて重要である. rexの過剰発現はgag, enuの発現を促進する余りtax/rexの発現を減少させ結果として転写う制御する. (4)rexのこの制御的機能によりHTLV-1の低い増殖性および潜在化し易い性質を説明することができる. (5)大腸菌で大量発現したHTLV-1のenu蛋白は, サルおよびラットにおいてウイルス感染防御のワクチン効果を示すことが確認された. これらのtax/rexの作用を分子レベルで理解すること taxのみでT細胞の株化或いはトランスフォーメイションが起こるか否か等について検討を加える必要がある.
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