研究概要 |
大腸菌の細胞分裂開始の誘導機構を分子レベルで明らかにすることを目的として本研究を行った. 大腸菌においては, 細胞分裂の開始には染色体DNA複製が終了することが必要である. 同様に, ある種のプラスミドを持つ大腸菌においては, 染色体DNAに加えて, プラスミドDNAの複製が行われることが必要である. F因子の場合, この調節はF因子上の2つの遺伝子, letAとletDにより調節されている. 本年度は, この調節に宿主大腸菌のgroES, groEL遺伝子が関与していることを見いだしたので報告する. 1.F因子の細胞分裂抑制(letD)蛋白質の標的蛋白質を同定するため, F因子letA変異株に耐性を示し(Tdi表現型) 同時に増殖が温度感受性となる変異株を分離した. 分離頻度より計算して, 分離可能な全ての遺伝子の変異株が分離されたと考えられる. 得られた変異は, 相補し得る組み換えプラスミドにより, tdiA, tdiB, tdiFの3群に分離された. 2.tdiA変異を相補するDNA断片の塩基配列を決定し, その配列を既報の大腸菌遺伝子の塩基配列と比較したところ, 一つの読み枠の上流の塩基配列がgroES遺伝子のプロモーター領域の塩基配列とよく一致した. この読み枠が, groES遺伝子であることは, この領域を持つDNAが, groES変異を相補することにより確認した. tdiA変異が, groES遺伝子の変異であることは, P1ファージを用いた形質導入実験と, miniFプライムを用いた相補性試験により確認した. tdiA6変異株の高温に於ける増殖を調べたところ, 隔壁形成の初期過程が阻害を受けていることが明かとなった. これらの結果は, GroES蛋白質がLetD蛋白質の標的であるか, LetD蛋白質と標的蛋白質との相互作用に欠くことが出来ない蛋白質であることを示唆している. 3.tdiBは相補製試験により, groEL遺伝子変異である事が明かとなった. groEL変異はGroES蛋白質を介してLetD蛋白質に作用しているものと考えられる.
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