研究概要 |
1.ヒトthymidylate synthase(TS)遺伝子の全構造決定:ヒトDNAライブラリーから得た約12.5キロ塩基対(kb)及び17.5kbのTS遺伝子断片クローンは7kbにわたって重複し, 両断片が占める約23kbの中に生物活性をもつTS遺伝子が存在した. その全塩基配列を決定した結果, ヒトTS遺伝子は7個のエクソンからなり, プロモーターを含むと考えられる転写開始領域から5′側上流数百塩基対までには, 転写制御エレメントであるTATA, CAAT, GCの諸ボックスは見つからなかった. 第3イントロンには約1.6kbにわたる翻訳配列と6塩基(GATGGTまたはGATGGA)を単位とする44回の反復配列が存在した. ちなみに, マウスTS遺伝子の構成は上記の第3イントロン及び第1と第7エクソンの非翻訳領域を除いてヒトのものと同じであった. 2.ヒトTSミニ遺伝子の作製:上記成果をもとにTSミニ遺伝子を作製した. 第1エクソンの上流領域は約300塩基対あれば最小限の生物活性を示したが, 今回は上流領域約4kb, 第7エクソンの3′側下流領域1.7kbを用い, (1)イントロンを全く欠くもの, (2)第1イントロンのみをもつもの, (3)第2イントロンのみをもつものを作製した. TS欠損マウス細胞に導入して活性を測定したところ, (2)は対照のSV40プロモーター依存の発現ベクター組み込まれたTScDNAと同等の活性を示した. (3)は全く活性を示さなかったが, (1)は低いながら活性を示した. TS遺伝子の発現が転写後の段階で大きく制御されていることはすでに報告しているが, 今回のTS遺伝子5′側上流領域の構造決定からも, その発現調節機構は分化関連遺伝子のものと異なることが推測される. ミニ遺伝子を駆使した研究をさらにすすめ, 本研究課題の最終目的にせまりたい.
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