研究概要 |
ATPase反応中間過程の熱力学的特徴と反応機構との相関をつけるために, 筋肉熱産生測定用の小型熱電堆を用いたストップトフロー熱量計による解析を行っているが, 今年度は, 次のような性能改善をはかり, ミオシンによるATP加水分解反応におけるATPの結合から加水分解, PiおよびADPの解離に至る主要な中間過程が熱測定的に分離できた. すなわち, すでに開発していた装置の観測室・混合装置をアルミニュウムブロック2枚構成のハウジングに収め, 空気恒温槽内に静置した水槽に沈めた, このように, 測定系の恒温環境を入れ篭構造にしたことによって, 1mkの微小温度変化が, ばらつき5%以下で測定できるようになった. 0°C, PH8.0におけるミオシンサブフラグメント(SF-1)とATPの相互作用では, 装置の不感時間内(10ms)に完了する速い発熱に続いて, 速い吸熱が見られる. 今回の改良によって, 種々の異なる温度での測定も可能となったので, 25°Cおよび15°Cでの測定を行った. 25°C, PH8.0では, ATPの加水分解が速い(>200s^<-1>)ために, ATPの結合と加水分解は不感時間内に完了してしまう, したがって, 反応初期には, 速い発熱のみが見られる. 温度を15°Cに下げると, 反応開始直後の速い発熱の後に, 溶液の流れ停止(flow stop)前ではあるが, 吸熱相が認められるようになる. PHを8.0から7.0に下げると, flow-stop後, およそ40msぐらい持続する吸熱相がみられる. このような吸熱相の温度・PH依存性は, ATP加水分解過程の動力学的特性と良く対応する. すなわち, 温度や, PHが低下した場合, ATP加水分解速度は, 25s^<-1>(PH8.0, 5°C)-55s^<-1>(PH7.0, 15°C)程度まで遅くなる. したがって, 15°C以下のストップフロー熱測定で見られる吸熱相は, ATPの加水分解過程に対応し, 先行する速い大きな発熱は, SF-1へのATPの結合にともなう熱変化に対応すると結論される.
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