研究概要 |
筋小胞体のカルシウムポンプは最も良く研究されているイオンポンプである. ポンプの作動機構を解明するためには, ATPのエネルギーと運ばれるイオンのエネルギーとの共役を明らかにすることは重要である. この研究は特に, このポンプがイオンを超電的(イオンの移動に伴って電荷が移動する)に輸送するかどうかを, イオンの移動に伴う電流を直接測定することによって証明し, 定量的な解析をすることに焦点を当てた. 具体的には, イオンチャンネル測定用の装置を改良し, 脂質平面膜に筋小胞体ベシクルを融合させ, カルシウムポンプを組み込み, ポンプによって駆動される電流を直接測定することによって, 実験を行なった. 主な結果は次の通りである. 1.脂質平面膜にカルシウムポンプを組み込む操作は基本的には, イオンチャンネルの場合と同じであるが, ポンプ電流は小さいので大量のベシクルを融合させなければならない. 組み込まれたポンプの数は, 組み込まれたベシクルの数から推定した. このベシクルの数は, アニオンチャンネルがベシクル当り0.7個存在することが分かっているので, アニオン電流を測定することによって, 推定した. 2.ベシクルを融合させた膜の一方にATPを加えると定常的に電流が観測された. この電流はカルシウムATPアーゼの阻害剤であるヴァナジン酸によって阻害され, ベシクルを融合しない平面膜にATPを加えても現われないことから, ポンプ電流であることが証明された. これによってカルシムポンプが超電的であることが直接証明されたことになる. 3.このポンプ電流の大きさから, 1個のATPの分解によって, 2個のカルシウムイオンが運ばれるとすると, 1個のATPアーゼの回転数として8.3/sが得られた. これは生化学的な方法で求められている酵素活性と一致することが分かった.
|