研究概要 |
アデノシンポリホスホピリドキサールを大腸菌F1-ATPaseに作用させたところ, 試薬は酵素のα, β両サブユニットに結合して, 酵素活性を消失させた. NaBH_4で処理した失活酵素を還元カルボキシメチル化後, リジエンドペプチダーゼで消化して生じるペプチドをゲル濾過によって分〓した. ピリドキシルリジンに由来するけい光をもつ物質は4つのピークに分離された. ピークIは未消化物であり, ピークIIIは少量であったので, 以後の実験には用いなかった. ピークIIから得られた標識ペプチドの構造決定を行ったところ, 標識残基はβサブユニットのLys-155であると同定された. 一方, ピークIVから得られた標識ペプチドを解析した結果からは, 標識残基はαサブユニットのLys-201であることが判明した. これら2つの残基は, 標識剤の構造から考えて, ATPのγ位リン酸基の近傍に位置するものであろう. 一方, 化学修飾による結果は, この標識剤が触媒部位に結合していることを示唆している. F_1-ATPaseの触媒部位はαとβとの境界面に存在するものと考えられる. 両サブユニットの一次構造には高い相同性があるが, 標識された2つのリジン残基は対応しない. このことは, ATPのγ位リン酸基の近傍に存在する残基が両サブユニットにおいて異ることを示唆する. αのLys-201とβのLys-155は共に種々のATPaseで極めて良く保存されている. 後者はグリシンリッチな領域に存在していたが, 前者はその領域から離れていた. ATPaseのαサブユニット上でATP結合部位に位置する残基が同定されたのはこの研究が初めてである.
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