研究概要 |
ミトコンドリアゲノム(mtゲノム)が多くの発癌剤の標的部位となっていることから, これまでミトコンドリア遺伝子の変異が細胞の癌化に重大な影響を与えている可能性が強く示されて来た. そこで今年は, 発癌剤処理によって癌化したマウス細胞のmtゲノムを正常細胞に移植し置換した場合, 宿主細胞の癌化が誘導されるかどうかを解析することにより, mtゲノムが発癌にはたす役割を明確にすることを目的とした. 先ず, 日本産野生マウス由来のmtゲノムをもつ特殊なマウスの系統(BIOmtJ)の胎児から寿命を失った細胞株を分離し, この細胞を発癌剤メチルコラントレン(MCA)処理することにより癌化した(造腫瘍性を示す)細胞株mtJ5Pを樹立しこれをmtゲノム供与体とした. 一方正常宿主細胞として実験用マウス(BIO)の胎児から, 寿命を失った細胞株BIOAYAを用いた. 次にMCAで癌化したmtJ5P細胞を脱核し, 残った細胞質体を, 正常宿主細胞BIOAYAと細胞融合させてmtゲノムの移植を完了した. このようにして12個のサイブリッドクローンを分離したが, 分離当初全てのクローンがmtJ5P由来のmtゲノムを60〜70%含んでいたが, その後2ヶ月の培養で8クローンは予想通り宿主細胞BIOAYA由来のmtゲノムがほぼ完全に脱落したのに対し, 残りの4クローンは予想に反し両者が共存し続けるか逆にBIOAYA由来のものが優古していた. この結果はMCA処理によりmtゲノムの伝達能が著しく変化を受けたことを示唆しており興味深い. 最後にこれらのサイブリッドクローンの造腫瘍性を調べたが, 全てのサイブリッドクローンは, ヌードマウスに移植しても癌を作らなかった. 以上の結果から, 発癌剤MCAは確かにmtゲノムに重大な変化を与えるが, それが原因で細胞の癌化が誘導されることはなく, MCAによるmtゲノムの変化は, 細胞の癌化の原因になるものではないという結論が得られた.
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