研究概要 |
分子進化における遺伝子重複について, グロビン遺伝子を対象に3つの面から検討した. 1)脊椎動物のグロビン遺伝子における遺伝子重複の初期像を推測するのに有用と考えられる魚類のグロビン遺伝子について解析を試みた. プローグとしては共に単離したコイのαグロビンcDNAを用いて, コイのDNAライブラリーからαグロビン遺伝子を単離した. 現在その構造決定を行っている. さらに同様のプローグを用いてシーラカンスDNAのSouthernブロッティングを行ったところ薄いながらバンドが得られ, シーラカンスグロビン遺伝子のクローン化の可能性が示された. 2)重複遺伝子の一方の不活化について, 旧世界猿類のδグロビン遺伝子を対象に解析を行った. ミドリザルのδグロビン遺伝子には, バブーンやリーザスで見られたコドン55の1塩基挿入によるフレームシフト変異も, コスブスで見られたCapサイトの欠失も見られなかった. 5´フランキング領域に上記4種の猿に共通な塩基置換がみられたが, in vitroおよびin rivoでの遺伝子発現系を用いた解析によると, これらの変異が発現に影響を及ぼすとは考えられなかった. 一方, IVS2, 69位にC-G及び713位にA-G変異が共通にみられ, それぞれスプライシングのアクセプター及びドナーサイト類似の配列が形成されることが分かった. 以上から旧世界猿類のδグロビン遺伝子の不活化の分子機構としては, IVS2内の塩基置換によるスプライシングの異常が考えられた. 3)重複遺伝子の均一化について, ヒトGr及びArグロビン遺伝子を対象に解析を行った. その結果少なくとも終止コドンより6塩基下流から5´側217塩基の範囲にわたる遺伝子変換を見いだした. この遺伝子変換のため2個のRFLPが生じるが, これを用いた62個のクロモゾームの解析により, この遺伝子変換はノンアレリックでありしかも一方向性であることが分かった.
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