研究概要 |
本研究は, 胚(受精卵)および配偶子(精子)の凍結保存法による, 野生由来をも含めたマウスの有用遺伝子および変異遺伝子の保存システムの確立を目的としている. 1.受精卵の凍結保存:代表的な標準近交系マウス数系統において受精卵の凍結保存を試みた. 8細胞期の受精卵を, グリセリンを凍結保護剤として, プログラムフリーザーを用いた修正緩慢凍結法により冷却・凍結させた. 融解は室温水中で急速融解を行ない, 一定時間培養後, 発生状態を観察した. このうち正常に発生した胚を偽妊娠雌マウスの子宮内に移植し, 新生仔への発育を調べた. 結果として, 代表的な近交系マウスにおいては, 移植卵の約20ないし40%が正常な新生仔として蘇生したことから, 同法によるマウス系統の受精卵による維持保存が可能であることが判明した. さらに, アジア産野生マウス(Mus musculus molossinus)由来の系統において, 同様に新生仔を得ることができたことから, 有用な変異遺伝子の供給源となりうる野生マウスにおいても, 受精卵による保存が実用性のあることが示唆された. 2.精子の凍結保存:目的とする有用遺伝子および突然変異遺伝子の保存に重点をおいた場合, 精子の凍結保存によるハプロイドのゲノムの保存も有用性が高い. 種々の凍結保護剤を比較検討した結果, 18%ラフィノースおよび3%スキムミルクを用いた場合, 数ヶ月間凍結後融解した精子においては, 野生マウスも含めた近交系マウスにおいて20%から45%の生存率を示すことが判明した. さらに受精能を獲得させた後, ホルモン処理により強制排卵させた雌マウスに対して人工受精を行なった結果, 新生仔を得ることができた. 今後, 凍結保存しておいた精子と, 過排卵処理によって得た末受精卵を体外受精させ, 受精卵を得ることにより, 産仔を得る技術を開発する予定である.
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