研究概要 |
マウス受精卵へのDNA注入によるトランスジェニックマウス作成法の確立により, 哺乳動物でも特定遺伝子の個体レベルでの機能を探り, また優性ヒト遺伝病のモデル動物を作成することが出来るようになった. しかし多くのヒト遺伝病は遺伝子機能の欠損により起こり劣性で, また一般にある遺伝子の働きを知るためにはこの遺伝子を余分に働かせることよりは欠損させることによって得られる情報の方が多い. マウス受精卵へのDNA注入によるトランスジェニックマウス作成法によって現在の所内在遺伝子機能を欠損させることには著しい困難がある. これに対し培養胚性未分化細胞(ES細胞)を用いる形質転換動物作成法には, 培養下では選別が出来るなど遺伝子機能を欠損するモデル動物作成の目的には多くの利点がある. しかしこの方法は主としてES細胞の培養の困難さの故から未だトランスジェニックマウス作成法として確立していない. そこで4日胚からの胚性未分化細胞の培養とその長期培養及びキメラマウス・子孫マウスの作成を検討した. 一般の正常体細胞は培養器内でその分裂能は限られておりaging→crisisの現象を示す. この現象がもし胚性未分化細胞においても本質的属性であるとすると, この細胞う用いる形質転換動物作成はそもそも成立しない. ES細胞を長期培養し約260回分裂させた後も効率よくキメラマウスが作成出来, また子孫マウスの得られることが確認さ, 4日胚由来の胚性未分化細胞はimmortalであると結論される. しかし長期培養の間ES細胞の核型は不安定であり, この不安定さが子孫マウスの得られる頻度の低いことと関連していると考えられる. 核型の不安定さは特に用いる栄養細胞の種類によって著明であり, ES細胞の安定な培養に適した栄養細胞の開発を引き続き検討中である.
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