研究概要 |
今年度は(1)ミトコンドリアゲノム(mtゲノム)の伝達様式を生殖細胞を通じた系で調べると同時に, (2)発癌剤処理を受けたmtゲノムの正常細胞への移植と置換を行うことにより, mtゲノムが発癌に関与するかどうかという問題について調べ, 具体的な結論を得ることができた. (1)マウス受精卵へのmtゲノム移植は高度な技術が要求されるのに対し, ショウジョウバエ受精卵を用いた場合は, "極細胞質"を受精卵へ移植することによりmtゲノムを直接生殖細胞へ導入できる. そこでDrosophila simulansの極細胞質を同胞種であるD.melanogasterの受精卵に移植し, この卵から発生した雌を母親としてそこから生まれた12個体の雌のハエのmtDNA組成とRFLPで個体別に調べたところ, 全ての個体は両種のmtDNAをほぼ等量含んでいることが確認された. この共存はその後4世代以上にわたってこれらの雌親の子孫に伝達されていたが, それぞれの集団を構成する個体レベルでみると個体差は世代とともに増加する傾向があった. 従って雌の生殖細胞系のmtDNAにヘテロプラズミーが生じた場合, (a)両者は比較的安定にに子孫の世代の集団に伝達されるが, (b)この集団を構成する個体はランダムな分配により一方の遺伝子型を失っていくと考えることができる. (2)伝達能がより優れた日本産野生マウスmtゲノムをもつ培養細胞を発癌剤であるメチルコラントレン(MCA)処理によって癌化させた後, この細胞のmtゲノムを実験用マウス由来の正常細胞に細胞融合によって移植し, しかもそれによってほぼ完全に置換してもこの細胞を癌化させることはできなかった. このことから発癌剤処理によるmtゲノムの変化が原因で細胞の癌化が誘導されるのではないという結論が得られた. ただMCA処理により日本産野生マウスmtゲノムの伝達能の優位性は重大な影響を受けることが明らかになった.
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