研究概要 |
絹フィブロインは分子量約350KDaのH鎖と分子量約25KDaのL鎖がジスルフィド結合した構造をもつ, H鎖とL鎖の遺伝子は異なった染色体上に存在するが, 両者の発現は後部絹系腺に特異的である上, 脱皮周期中の令期に発現し, 睡期には発現が抑制されるという同様な制御を受けている. H鎖遺伝子の後部絹系腺核内におけるクロマチン構造を, 単離核にDNasei, マイクロコッカルスクレアーゼ, 種々の制限酵素を作用させて, スクレアーゼ感受性の面から調べた結果, 転写の活性化, 不活性化に対応して, スクレアーゼ高感受性と高度に抵〓性の構造を周期的にとることが明らかにされた. このようなスクレアーゼ感受性の変動はH鎖遺伝子の5'上流約5.8kbのEcoRI部位, 3'下流約3kbのpstI部位では認められないことから最大約24kbにわたるドメインとしてH鎖遺伝子のクロマチン構造が変動するものと考えられた. 今後は転写制御と関わりの深い, 遺伝子の5'末端とその近接上流域のクロマチン構造の変化を詳細に解析する予定である. 一方, L鎖遺伝子については, コスミドクローンの塩基配列分析を進めた結果, 約13kbの大きさで7個のエキソンより成ることが明らかにされた. 興味深い点は, 5'上流域の-225〜-415の領域中に3ケ所, H鎖遺伝子の5'上流域の-155〜-275の領域中に含まれる配列と相同性の高い配列部分が見出されたことで, 両遺伝子の同調的制御のシグナル配列である可能性が考えられる. 現在, これらの配列に高親和性結合を示すクロマチンタンパク質の検索を行っているが, 後部絹系腺の核の0.35MNaCL抽出面分中にそのようなタンパク質の存在することをゲルシフト法で認めている. これらのタンパク質の精製とL鎖, H鎖両遺伝子の転写に対する影響を調べることが今後の課題である. 後者についてはカイコの胚由来の培養納胞に遺伝子導入することを計画している.
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