研究概要 |
RNAポリメラーゼII(polII)による転写反応において, RNA5′末端のキャッピングとATP水解の要求性の2点は他のRNAポリメラーゼ種(I, III)と異る大きな特徴であり, いずれも転写開始と密接に関連すると考えられている. 本研究では, HeLa細胞より得た無細胞転写系を用いてpolIIによる転写開始反応と上記二つの特徴との関連を解析し, 以下の結果を得た. (1)転写開始複合体形成におけるキャッピング酵素系の関与-まず, invitro転写系におけるキャップ形成の特異性を調べるためにpolIIおよびpolIII転写産物の5′末端分析を行った. アデノウィルス後期主要プロモーター(Ad2MLP)および同pIXプロモーター(Ad12pIXP)からの転写産物の5′末端はほとんどがキャップされており, それぞれ, m^7Gpppm^6Am, m^7GpppGmであった. 一方, polIIIで転写されるAd12VA1RNA遺伝子からの産物の5′末端はpppG-でありキャップ構造は検出されなかった. すなわち, この系ではinvivoと同様, polII転写産物に対するキャッピングの特異性が保持されていた. 次に, Ad2MLPを用いて形成させた転写開始複合体(50S)を精製し, 鎖の伸長反応を行わせたところ, RNAにm^7GpppAなるキャップ構造が付加された. この事から, キャップ形成に関与する酵素系のうちキャッピング酵素とmRNA(グアニンーク)メチル基転移酵素が転写開始複合対に特異的に組込まれている事が示唆された. (2)転写開始反応とATP水解-塩濃度の違いにより転写の開始と伸長を分離した2段階反応系を用いて各反応のATP水解要求性を調べた. その結果, Ad2MLP, Ad12pIXPいずれを用いた場合にも開始反応にはATP(2′-dATP, 3′-dATP)の存在が必須でありATPはAMPPNPで置換しえなかった. 実際に, これら2種類のプロモーターを用いて50S転写開始複合体形成反応を解析したところ, いずれの場合もその形成にはATPのγ位リン酸の水解が必須である事が明らかとなった.
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