研究概要 |
葉緑体の光化学系I(PSI)複合体にはセンターA, B, Xと呼ばれる鉄・硫黄クラスターがEPRシグナルから同定されているが, その実体は不明であった. 一方, ゼニゴケやタバコの葉緑体DNAの全構造が決定され, その中に2種の細菌型フェレドキシン様タンパク質をコードしうる構造が見出され, PSI中に存在する各サブユニットとの対応の有無が問われることとなった. そこで, ホウレンソウ葉緑体よりPSI複合体を調製し, 当量のη-ブタノールで処理し, 水層に抽出されるタンパク質をカルボキシメチル化したのち, DEAE-トヨパールや逆層HPLCによる操作で9, 14, および19kDaタンパク質を精製した. Cm-9kDaタンパク質のN末端構造29残基の同定により, その中に細菌型フェレドキシンの鉄・硫黄クラスター構造に必須の配列と完全に一致する構造上見出し, さらにこれがDNAから示唆されていたものと非常に類似のものであることを突きとめ, 今回PSIからとり出したタンパク質9kDaがクラスターA/B上構成するタンパク質そのものであると結論できた. さらにこのホウレンソウ9kDaタンパク質の全構造も決定し, それらが2つの鉄・硫黄クラスターを構成しうるものであることを確認した. さらに他の細菌フェレドキシンの構造と比較すると中央とC末端部に余分のアミノ酸が挿入された形であり, しかもその部分は疏水的で, チラコイド膜の中に埋もれて, 機能するのに都合のよいものであることが判明した. また, 光合成細菌により近い構造をしており, これの進化的位置付けにも言及できた. さらにこのタンパク質上鉄4原子, 硫黄3原子を含む状態で抽出することにも成功し, その吸収曲線が細菌型フェレドキシンのそれとよく似ていることも確認しえた. EPRスペクトルI測定する段階となっている. 藍藻にもこの類似物が見つかっている. またチラコイド膜内の存在状態も検討中である.
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