研究概要 |
本研究の目的は植物細胞における葉緑体分化, さらには全能性制御因子の解明にある. 本年度は細胞選抜により確立したタバコ光独立栄養(PA)細胞を用い, その葉緑体の発達過程を解析すると共に, 葉緑体遺伝子が培養により変異しているかどうかを解析した. 緑葉と培養細胞では新鮮物重当りのクロロフィル含量に約10倍の開きがある. しかし細胞当りの葉緑体数, 葉緑体当りのクロロフィル含量ではその差は小さかった. 従って, PA細胞では葉緑体の分裂, 緑化は細胞分裂と同調しているが, 細胞が肥大しているために新鮮物重当りの葉緑体含量が少なく測定されると考えられた. しかし, 葉緑体を調製し, その光化学系活性を測定すると, クロロフィル当りでは明かな違いが認められ, 生長にともなう変化の様式も, 緑葉と培養細胞で異なっていた. 従ってPA細胞といえども緑葉と異なる遺伝子発現制御を受けていると考えられた. チラコイド膜タンパク質をLDS電気泳動分析したところ限りでは, ペプチドパターンに大きな違いは認められなかったが, 細胞粗抽出液を分析したところ, 各々の細胞に特徴的なペプチドが検出され, 現在同定すべく検討中である. 一方PA細胞における光合成遺伝子の変異の有無について解析するためにまず葉緑体遺伝子の変異を解析した. 少なくとも制限酵素の切断パターンでみる限り培養細胞と緑葉での差は認められなかった. またpsbA遺伝子について塩基配列を決定し調べたところ, 一塩基の変化も認められなかった. 一方核のrDNAについてサザンハイブリダイゼションをしたところ植物体に比べ, かなりの減少が観察され, 核遺伝子の変化が推定された. その他の核遺伝子については次年度移行詳細に検討していく予定である. また, 葉緑体遺伝子のマーカーとしてアトラジン抵抗性をつけることに成功したので, この細胞を用いて体細胞遺伝学的解析を進めている.
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