研究概要 |
本研究は, 骨格筋解糖系の最も重要な律速酵素であるホスホフルクトキナーゼ(PFK)の活性制御機構を, 物質代謝レベル, 酵素蛋白レベル, 遺伝子レベルで解明することを目的とし, 昭和62年度に以下の実績を得た. 1.筋PFK欠損症(糖原病VII型)では, 運動負荷により運動筋から血中に放出されたプリン体によって高尿酸血症が引きおこされること. これは解糖系の障害されたエネルギー産生不全状態で, 筋プリン体異化が亢進することに起因する事実を, 各種反応中間体やプリン体代謝産物の測定から明らかとした. 2.さらに糖原病II, III, V型, 低カルシウム血症性ミオパチー, サイロイドミオパチーなど, 先天的あるいは後天的な要因によって筋解糖代謝の障害される他の疾患群において, 各種運動負荷試験を実施し, 同様の代謝産物の測定を行ない, その病態代謝を検討した. 3.これら解析の結果, 筋解糖系の代謝異常の結果として, プリンスフレオチド回路が活性化されプリン体分解系が亢進する. このようなメカニズムで筋運動を継続するに必要なエネルギー, すなわちATP供結を維持する系路の存在が明らかとなった. またその結果として生ずる高尿酸血症の統一的な理解が可能となり, これを「筋原性高尿酸血症」と呼ぶに至った. 4.筋解糖系律速酵素, PFKそのものを理解することが, これら代謝異常の病態解明に急務と考え, 分子レベルでの解析を目的として, ヒト筋PFKのcDNAクローニングを行なった. この結果, 同酵素のmRNAの構造, 蛋白質一次構造を塩基配列決定を通して明らかとすることができた. 今後はPFKの活性中心の解明と, 欠損患者の異常を遺伝子レベルで同定することを目的に, 主として分子生物学的手法で駆使した研究を展開していきたいと考えている.
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