研究概要 |
大脳基底核における神経伝達物質に関する最近の研究の発展はめざましい. しかし, これら神経伝達物質が, 動物の行動のどのような側面にどのように関与しているかはあきらかでない. これまでのサルをもちい研究で, 大脳基底核, とくに尾状核-黒質網様物質-上丘系が, 脱抑制によって随意的なサッケードの発現に重要な役割をしていることを報告した. これらの抑制性結合は, ともにGABAを伝達物質としていた. 今回は, 大脳基底核の眼球運動におけるこのような役割が一般的なものかを調べるために, ラットをもちいて実験をおこなった. サルの場合と同様に, 頭部を固定し, サーチコイル法によって眼球運動を記録した. サルにくらべて自発的な眼球運動ははるかに少なく, 小さかったが, あきらかなサッケード様の運動を示した. 黒質網様部にGABAのagnonistであるmuscimolを微量に注入すると, 1分以内に薬物注入とは反対側に向かうサッケードがおこり始め, その頻度は次第に高くなった. これは, サルでの同様の実験で見られた不随意的サッケードとよく似ていた. されは以下のように解釈することかできる. 注入されたmuscimolはGABA receptorが豊富にある黒質網様部ニューロンに結合し, その高い発射活動を抑制する. すると, 黒質網様部から上丘への持続的抑制が取り除かれて上丘ニューロンの興奮性が高まり, その結果, 反対側へのサッケードの頻度が異常に増加する. しかしサルの場合とは少し異なり, muscimol注入によって眼球運動以外の様々な運動がおこった. 頭部, ヒゲ, 鼻などは反対側に偏位し, 四肢の歩行様運動, そしゃく運動, 尾の回転運動がおこった. 大きなサッケードは頸部の筋電活動と一致していた. これらの結果から, 大脳基底核は多くの運動中枢を持続的に抑制していることが示唆される. そしておそらく眼球運動の場合と同様に, その抑制を取り除くかたちでそれらの運動の発現に関与するのであろう.
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