研究概要 |
マウス胚への外来遺伝情報導入として近年注目されている, 発生的全(多)能性細胞株を用いたキメラ作成技術の確立を目的とし, 本年度は, 遺伝子導入の担体となり得る細胞株の作成について研究を行った. 特に, in vivoで高い分化能を持つ精巣性奇形腫に着目し, 既に樹立されている精巣性奇形腫株STT-3の個体構成能をキメラ法により詳細に検討した. STT-3細胞は, マイトマイシン処理をした3T3組織芽細胞上で培養した. 増殖中の細胞集団を解離した後, マウス胚盤胞期胚の胞胚腔に顕微注入することにより多数のキメラ胚を作成した. これらの胚を偽妊娠マウス子宮に移植した後, 誕生してきたマウスのキメリズムを解析した. その結果, 生まれたマウスの約半数は, キメラであり, しかも, 各キメラ個体のほとんどの組織に高い割合で(最高90%以上)STT-3由来細胞が分布していることが判明した. また, 誕生したキメラマウスのいずれにおいても腫瘍は発症せず, 奇形腫細胞である本細胞株が完全に正常化していることを示す. 以上の結果から, 本細胞株は, 現存する奇形腫細胞株の中で最も高い個体構成能をもつものであることが判明した. 本細胞株は, 大量培養が可能であり, 遺伝子導入や細胞融合等の操作を加えることにより, 人為的に疾患モデル動物を作成するうえで有用な細胞株であると期待できる.
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