研究概要 |
心筋内ATPの存在様式は一様ではなく, 細胞質の可溶性分画以外に一部は筋原線維に結合して存在し, 又一部はミトコンドリア内にも存在している. 本年度はこれらの各画分のATPの虚血時の変動と心機能維持におけるこれらの画分のATPの役割を明らかにしようとした. 1.心筋ATPのCompartmentalizationについて;正常潅流時の心筋内ATPとCr-P含量を化学的に測定すると, その値は夫々, 1g当り22.4±0.71と22.9±5.1μmal/gdry wtであった. 一方^<31>P-NMRを用いてこれらの含量を測定するとATPとCr-Pの含量は夫々13.7±2.2と22.8±5.8μmal/8dry wtであった. 両測定法でCr-P含量には差はなかったが, ATPについてはNMR測定値は化学的測定値の61%であった. ^<31>P-NMR法は運動性の低い蛋白結合型の燐化合物やミトコンドリア内ATP等は観測しないと云われているので心筋では蛋白結合型とミトコンドリア内ATPは約40%であり60%が細胞質の可溶性画分に存在していると推察された. 2.阻血時におけるATP変動;阻血時には^<31>P-NMR測定におけるATPのシグナルは次第に減少し, 阻血開始後16分で完全に消失したが, この時点での化学的測定では5.7±1.7μmol/gdry wtのATPが測定された. この結果は阻血時には細胞質の遊離型ATPがより早く枯渇することで示している. 3.虚血心筋内ATPレベルの再酵素化の際に心機能について;虚血心筋の再酵素化後の機能を心筋の仕事量(心拍出流量×圧力)によって調べ, これと虚血心筋のATPレベルと対応させた. 虚血心筋のATPレベルが6μmol/gdry wt以上の時には心機能は100%回復するがATPレベルがこの値より低くなるともはや心機能は回復しないことが判明した.
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