研究概要 |
Ha-ras発癌遺伝子でトランスフォームしたマウスNIH3T3細胞に特異的に出現するエンハンサー結合蛋白因子,PEBP3,をDNA親和性クロマトグラフィーおよび高速液体クロマトグラフィーの組合わせによって高度に精製することが出来た。分子的解析の結果,同因子は次のような特徴的性質を持つことが明らかとなった。(1)2種類のサブユニットαとβ,それぞれの分子量20-25Kおよび30-35K,からなるヘテロダイマーである。(2)αとβは共にDNA結合活性を持ちしかもその認識配列は全く同等である。従ってPEBP3は全体として2価の結合能を持ち,それによってDNAにループ構造を形成させる働きがあるものと考えられる。(3)ポリオーマウイルスエンハンサー上の中心的機能領域であるAおよびBエレメントの双方にほぼ同じ強さで特異的に結合する。前項の性質を考え合わせれば,本因子はポリオーマウイルスのDNA複製および遺伝子発現の制御に対して,従来予想されていた以上に重要な役割を果たすものと目される。(4)PEBP3の活性レベルおよび分子的性状は細胞分子化あるいは種々の発癌遺伝子の影響下に大きく変動する。 これらの知見より,PEBP3は従来未知の新しい様式の制御機能を荷なう興味深い因子であることが明らかとなって来た。今後さらに本因子の生物学的役割を具体的に追究して行くために,精製標品をもちいてアミノ酸配列決定を進め,それを手がかりとして遺伝子クローニングを目指す予定である。
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