研究分担者 |
王 す民 中国科学院, 南京地理與湖泊研究所, 付教授
由佐 悠紀 京都大学, 理学部附属地球物理学研究施設, 教授 (90025403)
徳永 英二 中央大学, 経済学部, 教授 (80087147)
田上 龍一 旭川工業高等専門学校, 助教授 (50042081)
浦上 晃一 北海道大学, 理学部, 助教授 (20000870)
SUMIN Wnag Associate Professor, Nanjing Institute of Geography and Limnology, Academia Sini
|
研究概要 |
青海湖は青海高原の東端に位置する湖面積4,484km^2の中国最大の内陸湖水湖である。同湖の成因は、黄河の支川が構造運動に伴う土地降起により塞止められた閉塞湖と云われている。 かつての排出河川とされる倒淌川沿に、比抵抗法電気探査を実施した結果、現在、同河川は湖の東岸に流入する小河川にすぎないにもかかわらず、その谷の堆積層は厚く、約400mに達することが判明した。この倒淌谷の走向は湖内の最深部を経て、湖西端に流入する最大の流入河川で断層線谷と云われる布哈河の走向とほぼ一致している。 この走向は、また、青海湖流域における断層線の主方向と一致している。基本的に青海湖は断層盆地に湛水した構造湖である。また、湖が完全に閉塞状態となった時期は、現在の湖水の^-Cl含有量5.9g/lと耳海湖岸で掘削した湖底堆積物コア中の塩類含有量の時代変化から判断して、更新世末期、最終氷期にはいってからと結論した。 倒淌川は日月山峠南方で黄河へ流入していたが、激しい隆起運動により、Wurm氷期に至って、完全に湖盆は閉塞した。なお、湖水の濃縮状態から見て、氷期期間中は、湖への流入量は著しく少く、湿原状態で推移したと考えられる。 現在の湖面標高、3,193mの青海湖の気候は、年降水量375mm、年平均気温-0.6℃で、過去29年間の気象資料から求めた年蒸発量は804mmであった。現気候条件下で湖水位が平衡状態にあるとすれば、流域蒸発散量と湖面蒸発量との比(f値)は、0.37となる。f値に関する中尾のこれまでの見積によれば、温暖湿潤な森林流域では、f=0.65〜0.75、植生のまばらな乾燥流域では蒸発散量は著しく少く、f=0.15であった。青海湖流域は草原状態にあり、f=0.37の値は、流域の植生から見て妥当であろう。 湖岸に3段の明瞭な広い湖棚平野(湖岸段丘)が拡がり、3回のドラスチックな湖水位変化を示している。それぞれ、高位段丘(T_3)、中位段丘(T_2)および低位段丘(T_1)と名付ける。高波測量と貝化石の^<14>C年代測定によれば、T_1の現湖面との比高は約+22mで、1,900yr.B.P.、T_2は+40mで、4,830yr.B.P.、T_3は+67mで、形成年代は耳海湖岸の湖成堆積物コアの化学分析から判断して、約8,000yr.B.P.であった。 なお、最高水位の痕跡は、+110mに認められ、その^<14>C年代は後氷期が始まる12,000yr.B.P.であった。この時期、日月山の最低鞍部である+105mのKetu Passを越流した可能性が強い。 また、最高水位時の湖面積は、現湖面積の約2倍の8,543km^2に達した。若し、後氷期の融雪水を考慮せず、水収支平衡を考えると、古降水量は現降水量の20%程度の増加となる。衛生写真から測定した青海湖流域面積は、湖を含んで、30,028km^2である。 流域内の現存氷河は、湖の北西、流域分水界の最高峰(標高5,174m)にわずかに見られるのみである。当地での現氷河の下限標高は、4,700mで、氷期の氷河痕跡(ス-ク地形)の下限は、青海湖高山山脈で、4,100mであった。単純に、気温逓減率で考えると、氷期と現在では、約4.2℃程度の温度上昇が推定される。なお、氷期に山岳氷河に被われていた標高4,100m以上の流域面積は、中国側の計測により、現湖面積とほぼ等しい4,435km^2であった。 氷期は流域の高地に降水量を氷として固定し、山岳氷河域を拡大してきた。従って、湖盆はツンドラ湿原状態にあり、湖水位は最低水位を示していた。また、4,100mのス-ク地形末端に連なるU字谷から見て、最終氷期の最盛期には、ス-クから下流に氷河は溢流したと見られる。後氷期になると、山岳氷河の融雪により、湖水位は急激に上昇し、+110mの最高水位において、拡大した湖面の蒸発散量と降水量の約20%増に相当する融氷水により、一時的に水位平衡に達し、最高水位痕跡を印した。 一方、今世紀初頭から現在まで、約10mの湖水位低下が報告されている。ロシアの探検家、コゾロフによれば、1908年、同湖の最大水深は36mと測定された。その後、中国隊の調査によれば、1955年、32.8m、1979年、28.7mで、1987年の我々の測定では27mであった。湖水位低下に伴う流域の地下水位低下は牧草地の減収につながることから、青海省政府はこの低下原因について重大な関心を寄せている。今回の水収支解析によれば、低下原因は近世における流域の畑地拡大により、著しく畑地灌漑が増大した結果と判断される。
|