研究課題/領域番号 |
63041015
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研究種目 |
国際学術研究
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 学術調査 |
研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
田中 英道 東北大学, 文学部, 助教授 (80000397)
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研究分担者 |
芳野 明 東北大学, 文学部, 助手 (10210741)
麻生 秀穂 東京芸術大学, 美術学部, 教授 (30015276)
長尾 重武 武蔵野美術大学, 造形学部, 教授 (30011167)
中江 彬 大阪府立大学, 総合科学部, 助教授 (20079007)
若桑 みどり 千葉大学, 教養部, 教授 (30015234)
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研究期間 (年度) |
1988 – 1990
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研究課題ステータス |
完了 (1990年度)
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配分額 *注記 |
33,000千円 (直接経費: 33,000千円)
1990年度: 13,000千円 (直接経費: 13,000千円)
1989年度: 13,000千円 (直接経費: 13,000千円)
1988年度: 7,000千円 (直接経費: 7,000千円)
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キーワード | ABー57液 / プンテジァ-ト / 3制作時期 / 4大元素 / 4世代 / 構造的図像解釈 |
研究概要 |
500年に一度といわれるシスティナ礼拝堂天井画の修復は、積年の埃、蝋燭の煙煤、天井のひび割れによる水の浸透によるしみなどを除去する作業であったが、ABー57液と名づけられた塩化剤、中和剤、酸や金属イオン、かび抑止剤などを含む合成液によってなされ、原色と思われる色彩があらわれるようになった。時には陰影の部分などの色彩が取られ過ぎ、という批判もあったが、現在のところほぼ成功したように思われる(ただし表皮の保護膜まで取ってしまったのではないかという批判の結果は数十年たたないとわからない)。私達研究調査団は5年にわたる天井画主要部の足場の上での修復状況を見つめながら、技術的な面を中心に、壁面調査を行なってきた。修復陣がたとえば『ノアの泥酔』のセム・ハム兄弟の姿の傷みに対して、上塗りをしてしまったこと、半円形壁画の『ア-サ』の開いていた目の線をとって目を閉じた状態にしてしまったことなどの批判を行なってきたが、やはり17世紀以降の補筆を取り元の色彩を復活させたことは、何よりもミケランジェロの元型をうかがうことができて有意義であった。足場は20mのところにつけられ、40×15mの画面に平行して移動していき、5年間少しずつ祭壇側の方にずらされていき、それをすべてフォロウすることができたのは幸いであった。以下はこの観察結果による新たな発見の報告の概要である。 まずこの大画面全体がすべてミケランジェロの手になるものかどうかについてであるが、まず最初に手がけた『ノアの洪水』の画面において、若干の助手の手があることが認められた。しかしこの最初の画面で、助手に不満足であったことで中止してしまい、それ以外は預言者、巫女像左右の大理石模様のプットー達と、メダイヨンを助手たちに任せるだけで(それも巨匠自身のデッサンによる)すべて自分自身で描いていることがわかった。無論、画面の緑どり装飾や線などは助手の手になるものである。巨匠はこれだけの大画面を一人で行なうことにより、より単純化した画面のうちに圧縮した彼の絵画思想を表現しうることになった。しかし期間はおよそ5年にわたり、その間1年間ほど法王が資金を出すことができなかった関係で、中断することとなった。またフレスコ画はカルトンで原画を描き、それを壁画(イントナコ)に移し、その線にそって色彩をつけるのであるが、ふ通スポルヴェロといって、カルトンに輪郭線にそって穴をあけ黒い粉をうち、その壁面の跡にそって描くといわれるが、ミケランジェロはその方法を用いておらず、単に点で穴を打つだけであることがわかった。これを私たちは「プンテジァ-ト」と名づけ、インチジオ-ネ(印刻線)と共に両方併用していることを発見した。このプンテジァ-トは、その後ラファエルロに模倣され、カルトン自身が保存されることになり、素描史上大変有意義な貢献となったことがわかった。この観察により、ちょうど画面の中央の『預言者エゼキエル』と『巫女クマ-ナ』が異なる時期に描かれたことがわかり(その両側のプット-が、一方がプンテジァ-ト、他方がインチジオ-ネで描かれていたことがわかった)。第2期と第3期(この両時期の間がほぼ1年ある)の境界がこれにより発見されたことになった。これによれば中央画面では、『水の分離』から、預言者・巫女像では『巫女クマ-ナ』から、第3期となり、大きな構図で大胆に描かれるようになったことが浮彫りにされた。なお第1期と第2期はほぼ連続であり、境はノアの3場面とアダム・エヴァの3場面の間にあたる。つぎに図像的な面での発見はすでにこの調査が始まる前から推測されていたことであるが、この調査によって一層明確になり、全体の構造に関わっていたことがわかった。これは色彩が鮮明になったことにより確認されたことであったが、たとえば『水の分離』の周囲の4裸像の衣の色がそれぞれ青・赤・緑・茶の色であることが明確になり、それにより「空気」「火」「水」「土」という4元素の色彩であることが確認された。又、老人の預言者像が原則として茶褐色を使い四世代のうちの「老」世代であり「土」の色でもあることが理解された。このように見ていくと全体の場面・人物が4つずつの単位で描かれていることがわかり、聖書の人物像の基本をなしていることがわかった。
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