研究課題/領域番号 |
63041051
|
研究種目 |
国際学術研究
|
配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 学術調査 |
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
大塚 柳太郎 東京大学, 医学部, 助教授 (60010071)
|
研究分担者 |
稲岡 司 熊本大学, 医学部, 助手 (60176386)
河辺 俊雄 東京大学, 医学部, 助手 (80169763)
秋道 智彌 国立民族学博物館, 第1研究部, 助教授 (60113429)
|
研究期間 (年度) |
1988 – 1989
|
研究課題ステータス |
完了 (1989年度)
|
配分額 *注記 |
14,500千円 (直接経費: 14,500千円)
1989年度: 4,500千円 (直接経費: 4,500千円)
1988年度: 10,000千円 (直接経費: 10,000千円)
|
キーワード | パプアニュ-ギニア / ヒト個体群 / 人口支持力 / 人口動態 / 生計適応 / 栄養適応 / エネルギ-収支 / 近代化 |
研究概要 |
本研究は、メラネシアの主要な環境である低地、山麓部、高地に居住する個体群の適応機構の比較に主眼をおき、1988年(昭和63年度)に山麓部の個体群、1989年(平成元年度)に低地個体群を主対象とする調査を行った。 1.山麓部個体群(サモ族及びクボル族と、マレ-湖周辺の集団) 1)サモ族及びクボル族(合計人口約1,200)は言語が異なるものの、両者が1個体群とみなせるほど内婚率が高く(92%)、このことは高死亡率(再生産年齢に達する以前に約半数が死亡)及び低出生率(女子の生涯出生数が4末満)を伴う場合、人口再生産を維持する上で不可欠と判断された。 2)サモ/クボル族は食物エネルギ-の90%以上をサゴと焼畑作物(主としてバナナ)に依存し、近隣のマレ-湖周辺の住民はエネルギ-の大半をサゴに依存するものの、魚類の摂取量が多くタンパク質摂取量はサモ/クボル族の約2倍に達する 3)マレ-湖周辺住民の尿中総水銀は最も高い村落の平均値で15μg/g creatinineであった。彼らが摂取する植物性食物及び飲料水の水銀濃度は他集団のものと大差はなく、水銀濃度の高い海水・淡水両域回遊魚の摂取の影響と判断された。 1.低地個体群(ギデラ族) 1)1981年の調査結果と比較し、エネルギ-、タンパク質、微量栄養素の各摂取量に顕著な変化はなかった。24時間心拍数測定に基づくエネルギ-消費量は平均約3,500Kcal/日であり、高エネルギ-摂取と整合し、山地オク族(高地個体群)の約2,000Kcal/日とは明瞭に異なる適応形態と判断された。 2)近代化の影響は、ギデラ族内でも近代化の進んだ村落の高い流出入率に特に反映しており、個体群の変容の初期過程が明らかとなった。 3)採取した血液試料(約700)のヘモグロビン、血清フェリチン、血清亜鉛、血清銅等の分析から、鉄、亜鉛等の栄養状態に村落間差が大きく、それらが元素の摂取量よりもマラリア感染等の健康状態に影響されることが明らかとなった。 2.高地個体群(山地オク族) 1)低タンパク質摂取(0.4ー0.5g/kg body weight/日)の原因として、タロ依存の伝統的システムではタロの長期間の人口支持力の低いこと、サツマイモが導入された集団でも多雨量(8,000mm/年)による土地生産性の低さ、人口の狭い地域への集中による野生食物資源の入手量の低下により、サツマイモの高い土地生産性が顕在化しないことが明らかとなった。 4.個体群間の比較 メラネシアの異なる環境下におけるヒト個体群の対照的な適応機構を系統的に明らかにすることができた。 1)低地個体群では、内陸の村落(分個体群)に比較し海や河川に面した村落で、マラリア等の感染症による死亡率のため人口再生産率が負であったが、近代化の影響により町に近い前者で人口再生産率は顕著に高くなり、全体としても年人口増加率は約2%となった。一方、他の2集団は近代化の程度が低く、山麓部個体群では主としてマラリア、寄生虫等の感染症のため、高地個体群では主として低人口支持力と低栄養状態のため、置き換え水準ぎりぎりの人口再生産率であった。 2)タンパク質摂取量は1人1日体重1kg当り、低地個体群で約1.2gであり、山麓部個体群でその約2/3、高地個体群で約1/3であった。他の栄養素(微量栄養素を含む)の摂取量と栄養状態にも個体群差が顕著にみられ、これらは一方では環境条件、生業パタンと、一方では体格や成長さらには出生率で密接に関連することが明らかとなった。 5.方法論上の成果 1)各個体群の3ー4の村落における食物摂取調査と、食物・飲料水サンプルの成分分析に基づく栄養素(微量栄養を含む)摂取量と、心拍数測定に基づくエネルギ-消費量、尿中の尿素窒素濃度、毛髪中及び血中微量栄養素濃度との関連を系統的に明らかにしたことは、野外調査研究における方法論の向上に大きく貢献した。 2)人口動態、環境利用・生業活動、食物・栄養素摂取、栄養・健康状態を関連づけ、時間的変動及び空間的変動を重視し、ヒトの適応機構を解明したことはヒト個体群生態学の方法論の確立に貢献した。
|