研究分担者 |
MAYCOCK P.F. トロント大学(カナダ), 教授
PEET R. ノウスカロライナー大学(米国), 教授
GRANDTNER M. ラバール大学(カナダ), 教授
DAMMAN A.W.H コネチカット大学(米国), 教授
BOX E.O. ジョージア大学(米国), 教授
GOLLEY F.B. ジョージア大学(米国), 教授
中村 幸人 作新学院大学, 講師
大場 秀章 東京大学, 総合研究資料館, 助教授 (20004450)
岩槻 邦男 東京大学, 理学部, 教授 (10025348)
大野 啓一 横浜国立大学, 環境科学研究センター, 助教授 (20213811)
藤原 一繪 横浜国立大学, 環境科学研究センター, 助教授 (80018043)
奥田 重俊 横浜国立大学, 環境科学研究センター, 教授 (00000141)
DAMMAN Antony W. H. Prof., Department of Botany, University of Connecticut
PEET Robert K. Prof., Department of Botany, The University of North Carolina at Chapel Hill
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研究概要 |
1現地研究調査の実体概要 昭和63年度から3年間の現地調査計画は予定通り行われた。第1年度はアメリカ合州国のフロリダ州マイアミよりカナダのトロント,ケベックまで,第2年度はカナダのケベックを起点にガスペ半島,ノバスコシアを経てアメリカ合衆国ニュ-オリンズまで,第3年度は内陸部へのライントランセクトも含めて,ボストンよりキ-ウエストまで調査された自然植生から様々な人間の影響下の代償植生まで3年間に1500の植生調査が得られた。 (1)北方針葉樹林はカナダ東部およびホワイトワシントンなど現在の北米東部の文化帯の上限および北は北方針葉樹林帯まで達している。現在カナダおよび北米北東部の北方針葉樹林の大部分は既に1回ないし3回以上の伐採や山火事による再生林や二次林が多い。(2)夏緑広葉樹林は,北米東部の文化帯で最も広い面積を占めているのは夏緑ナラ(deciduous Quercus)の各樹種が優占する夏緑広葉樹林である。北米東部の現在の文化帯が,北はケベック,モントリオ-ル,ボストン,ニュ-ヨ-ク,フィラデルフィア,ワシントンから南部までほとんど夏緑広葉樹林帯に位置している。(3)常緑広葉樹林は南部のノ-スカロライナ,サウスカロライナの海岸沿い,ならびにアトランタ,サバナ以南に,常緑カシ(evergreen Quercus)類を主とする林分が広がっていたはずである。(4)亜熱帯植生はフロリダ半島の南部に分布する。マイアミ南部の海岸沿いのマングロ-ブ林では構成種はわずか6種である。しかしリゾフォラ(Rhizohora)などのマングロ-ブ林がアメリカ東部のエヴァグレイスを中心に分布している。 2日本列島との比較考察 (1)照葉樹林文化と夏緑広葉樹林文化 すでにア-サ-グレイが1859年に指摘しているように北米東部のフロ-ラは日本列島に比較的対応している。しかし科の段階ではかなり一致しているが,属,種ではほとんど異なる。北米東部の自然植生特に森林について考察して,日本列島との対応で大きく特徴づけられることは,わが国の文化帯が主として常緑広葉樹の照葉樹林帯に位置しているのに対して,北米東部は中部ヨ-ロッパと同じように夏緑広葉樹林帯に位置している。しかも日本やヨ-ロッパでは夏緑広葉樹林帯の主木はブナ林である。しかし北米東部では氷河の影響で土壌が浅いこと,然も比較的降水量が少ない事にも起因してブナ
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(Fagus grandfolia)林の分布,優占域が限れている。主としてブナ林が発達しているのは,五大湖からアパラチア山脈沿いにグリンヒル付近までである。ブナ優占林は少なく,ミズナラ林に混生している。アメリカの夏緑広葉樹林帯は各種のナラ林に多くのカエデ(Acer)類が混生しているのが特徴である。従って日本の照葉樹林文化に対応して,名づけるとすればアメリカ東部の文明は夏緑広葉樹林文明,あるいはナラ,カエデ文化ともいえる。 (2)人間活動と植生動態 2000年以上の人類文明と様々な時代に応じた人間活動の歴史を持つ狭い日本列島よりも,白人が入植してせいぜい300〜400年の歴史しか持たない,面積的にも日本の約25倍の面積を持つアメリカ東部や,カナダの方が残存自然林や自然植生が多いと想定された。今回の調査結果では全く逆で,北米東部では北はカナダのガスペ半島やノバスコシア半島まで南北につながるアパラチア山脈東斜面から大西洋岸まで含めて,また南はフロリダ半島最南端のキ-ウエスト,西部はニュ-オリオンズ周辺にいたるまで,厳密な意味での原生林は全く見られなかった。社寺林などで残されているわが国の残存自然林に較べて,原生林や厳密な意味の自然植生がアメリカ東部では乱伐,火入れなどによって消滅している。我々の主な調査対象とした国立公園,国有林,天然記念物なども1920年後期から法的指定の網がかかり,その後現在まで比較的人間干渉が少ないが,日本列島と比較して世界の他の地方と同様にアメリカ東部でも,人間活動が植生動態に与えた最も決定的な要因は火入れである。今日なお国立公園,国有林を含めてアメリカではいわゆる火入れ管理(fire management)が行われているほどで,殆ど数回以上森林に火が入り林床が荒廃し残存している大木も高さ5〜8mまでは炭化した表皮で占められている。反面わが国では地形が急峻なこと,および宗教的な自然に対する畏敬意識やほとんど林内における家畜の放牧,火入れが厳しく最近数百年このかたおさえられてきた。従って残存森林が市街地や住宅地域の中や回りの社寺林を含めて,面積的には狭いが各地に残されている。 3都市の緑環境の保全と維持 山地に原生林が残されて居ないのに対してアメリカ東部の各都市,特に住宅域や公共施設の回りに巨大な自然植生の構成種の大木が残存している。ワシントンのホワイトハウスの中庭の回りはもとよりニュ-ヨ-クのセントラルパ-ク,ジョ-ジア,ノ-スカロライナから,北はボストン周辺に至るまで住宅地域では胸高直径50ないし1m以上の巨大なカシやミズナラなどの土地の本来の自然植生の主木が日陰になったり落ち葉がおちるのも厭わず残されている。またワシントンの渓谷沿いの都市公園など見事な斜面林あるいは都市林が残されている。この自然との共生の都市の森,立体的な緑の保全はわが国のいわゆる造園,剪定,外来種植栽方式の都市緑化において大いに学ぶ点と言える。 隠す
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